2020/03/13(金) 10:34
鹿児島県の屋久島にて2月15日、16日に、ヒルクライムレース『屋久島ヒルクライム2020』と、屋久島を一周するサイクリングイベント『2020サイクリング屋久島』が開催された。サイクリング屋久島は今年で10回目を迎え、記念大会としての開催となった。
屋久島は、鹿児島県の南南西に浮かび、屋久杉や豊かな自然、ヤクシカやヤクザルなどの野生動物で有名な島。1993年に世界自然遺産に登録されている。屋久島は、標高による植生の遷移や暖温帯の生態系の変遷等の研究に重要な素材がそろっており、動物植物学者の中では『人類の至宝』とも評されているという。
サイクリング屋久島は、この自然豊かな島の外周路を、楽しく走るファンライドだ。一方のヒルクライムは、映画『もののけ姫』のイメージの基になったと言われる『苔むす森』が広がる『白谷雲水峡』に向かう登坂を使用し、開催されるレース。今年で4回目の開催だ。といっても、8kmの上り坂を「がんばって上ってみる」イベントであり、“レース”とはいえ、参加のハードルはサイクリングと同じくらい低い。
コースの全長は、およそ8km。白谷雲水峡駐車場をゴールとし、平均勾配6.9%、600mほどの獲得標高を駆け上がる。
[caption id="attachment_31955" align="alignnone" width="640"] 午前中降った雨も集合時刻には止み、問題なく走行できる環境に[/caption]
参加者はまずは屋久島町役場宮之浦支所に集合。宅配便で自転車を送り込んだ参加者は、ここで自転車を受け取り、組み上げて、ゼッケン等を受け取り、出走準備を進める。実は、天気予報では大雨となっていたのだが、集合時刻には奇跡的に雨も上がり、路面の濡れも気にならない状況になっていた。
[caption id="attachment_31956" align="alignnone" width="640"] 「行くぞ!」スタートが近づき、緊張感も高まる[/caption]
ここから、スタート地点である屋久島総合自然公園入口まで隊列を組んで移動するのだが、この時点ですでにそれなりの勾配が出現。よいウォーミングアップになると同時に、「ここからこんなにきつくて大丈夫?」と、レース本番への不安も広がっていく。
ゼッケン番号に記されたグループごとにスタートするルールとなり、参加者たちはグループごとに黙々とラインナップ。暑くも寒くもなく、風もなく、絶好のヒルクライム環境が整った。予定通り、13時30分、女子グループからスタートが始まった。
[caption id="attachment_31957" align="alignnone" width="640"] スタートの号砲を合図に、グループごとにスタート。順位を狙う参加者はスタートから全力だ[/caption]
スタート直後から10%越えの厳しい勾配が登場。コースプロフィールとして公開されている勾配図は、縦軸の縮尺の関係でキツそうに見えないのだが、実際はかなり厳しいらしい!参加者たちは淡々と上っていくが、場所によっては20%を超える激坂も含まれている模様。
ほぼ下りはないが、勾配の緩急もあり、勾配のゆるい部分で脚を休めつつ、リズムを作って上っていく。参加者が少ないこともあり、集団でのレースというよりは、個々が自分のペースを刻みながら上っていくという展開になったようだ。
[caption id="attachment_31958" align="alignnone" width="640"] このコースを28分で走破、優勝した橋本耕太朗選手。自己ベストには及ばず、悔しい顔を見せた[/caption]
九十九折の内側は非常に勾配がキツくなる。コースとなる道路は全面交通封鎖がされており、ぜいたくなことに、この日に出走した50名ほどの占有。もちろん、走行ラインは自由!ジグザグ走行をしながら、少しでも楽なラインを探して上っていく。
[caption id="attachment_31959" align="alignnone" width="640"] 「キツい!」笑顔の余裕を残しつつ、40分切りのタイムでフィニッシュ[/caption]
国内で唯一の国立の体育大学であり、日本のトップレベルの自転車競技選手を輩出し続けている鹿屋体育大学の自転車競技部が参加者のグループに散らばって入り、参加者たちのペース作りを助けたり、きびしくなった参加者のサポートをしたりしながら走っていた。
[caption id="attachment_31960" align="alignnone" width="640"] 鹿屋体育大学自転車競技部が参加者のレースをサポート。橋本優弥選手(黄色のジャージ)はトラック競技のアジア記録ホルダーだ[/caption]
コース自体はタフなものであるが、特筆すべきは、白谷雲水峡に向かうヒルクライム。周囲に広がる濃い緑に覆われた山々や谷に、まるで生命があるかのように刻々と姿を変える霧がかかり、雰囲気を変え、苔むす岩や、水しぶきをあげる滝など、目に入ってくる景観が非常に魅力的だ。見晴らしが効くところでは、広がる景観を愛でてみたり、登坂の苦しさから意識を切り離し、環境を楽しみながら峠に向かうことができる。2月の開催とあり、多くの参加者が冬用の装備を準備したのだが、天気が好転し、暑さに悩まされた参加者も少なくなかったようだ。
[caption id="attachment_31961" align="alignnone" width="640"] 霧に包まれた山々の間を縫い、上っていく[/caption]
もちろん記録を狙い込み、自分の限界に挑戦することにも価値があるのだが、一般参加者にとっては、「日常にない頑張り」をしながら、絶景を満喫するだけでも十分な価値があるように思えた。
[caption id="attachment_31962" align="alignnone" width="640"] 全力でゴールに飛び込む。ガッツポーズの手塚選手は総合4位を決めた[/caption]
[caption id="attachment_31963" align="alignnone" width="640"] 通常プロのロードレースをサポートするマヴィックカーが、この日はヒルクライムをサポート[/caption]
最後まで続くきつい勾配に打ち克ち、ついにゴール!少し下り、振る舞いが準備された白谷雲水峡の駐車場に流れ込んでいく。
この日は午前中の雨がきつかったせいか、サルたちが出迎えてくれることがなかったのが残念だが、走り終えた参加者は、みな達成感に満ち溢れた明るい笑顔を浮かべていた。
[caption id="attachment_31964" align="alignnone" width="640"] ゴール後、ふるまいを手に取る参加者たち[/caption]
ゴール後、待機場所に向かうと、ふるまいが用意されていた。よもぎがたっぷり入ったお餅を葉で挟んで蒸しあげた「かからん団子」や、漬け物、ふっくらした大粒の小豆が入った少し塩のきいたお汁粉。疲れた体に甘いものがしみわたる。汗をかいた後とあって、塩気のあるものも嬉しい。お餅の甘さ、お汁粉の塩加減と甘さのバランスが絶妙で、感涙モノだった。挑戦したあとのごほうびは、それだけでサイコーなのだが、白谷雲水峡に入る手前の駐車場とあり、当然空気も澄み、ロケーションも極上。同じコースに挑んだ戦友たちとの会話も盛り上がり、参加者たちはゴール後のひとときを満喫したのだった。
[caption id="attachment_31965" align="alignnone" width="640"] 下山待機場所にはぜんざいや「かからん団子」、漬物などが並び参加者をもてなした[/caption]
[caption id="attachment_31966" align="alignnone" width="640"] 鹿児島名物のかからん団子。「かからん葉」をめくると、濃い緑色のだんごが現れる[/caption]
全参加者が順調にフィニッシュしたこと、このあとの雨の可能性が高かったことから、時間を少し早めて下山が開始された。2グループに分かれ、鹿屋体大のメンバーを先頭にスタート。路面が濡れている箇所もあり、慎重に下っていく。
[caption id="attachment_31967" align="alignnone" width="640"] 2グループに分け、サポートライダーの先導で下山[/caption]
反対側から眺める景色はまた表情が異なって見え、ゴール後の気持ちの余裕もあって、美しさもひとしお。霧が晴れ、海まで見渡せる瞬間があったりと、屋久島ならではの美しさ、神々しさを楽しみながら、下ることができ、通常のヒルクライムレースでは無機質な動きとなる下山も、大いに楽しみながら走ることができ、参加者たちも満足げだった。
[caption id="attachment_31968" align="alignnone" width="640"] 生き物のように形を変える霧の美景に、バイクを停めて見入る参加者たち[/caption]
[caption id="attachment_31969" align="alignnone" width="640"] 海に向かって下っていく。絶景の連続だ[/caption]
スタート前の集合場所となった宮之浦支所に再集合。ここで完走証となる盾が贈られた。すべて天然の屋久杉を使用しており、木目に個性がある。好みの木目探しを楽しみ、選び取った盾を大切そうに持ち帰っていた。
[caption id="attachment_31970" align="alignnone" width="640"] 下山し、出迎えた家族と合流する岩川選手。まだ中学生ながら、女子総合2位に[/caption]
この日は雨の予報を受け、出走を断念した参加者が多く、出走は48名。総合優勝を飾った橋本耕太朗選手は第一回大会の覇者でもある。今年のタイム「28分48秒」は自己ベストに及ばず、また来年の挑戦を誓っていた。
[caption id="attachment_31971" align="alignnone" width="640"] 総合上位の表彰(翌日開催)。所属チームの「決まり」というキメポーズをリクエストし記念撮影[/caption]
この絶好の環境で臨むヒルクライムレースは、今後参加者が増えていくだろう。どんな記録が生まれるのか、また、どんなドラマが展開されるのか、とても楽しみだ。
[caption id="attachment_31972" align="alignnone" width="640"] 絶景を望む美しいコースが参加者を待っている。厳しいが、楽しい[/caption]
この翌日は島一周サイクリング。ヒルクライムの参加者のほぼ全員が、このまま翌日のライドに参加する。思うような結果が出せた参加者も、そうでもなかった参加者も、屋久島の夜を楽しみ、翌日に備えたのだった。
写真提供:2020サイクリング屋久島&屋久島ヒルクライム/編集部(P-Navi編集部)