ツアー・オブ・ジャパン(最終ステージ)

2019/12/31(火) 10:54

ツアー・オブ・ジャパン(最終ステージ)

【2019年も全国各地で熱戦が開催されたロードレース。その大会の模様を回顧します】

ツアー・オブ・ジャパン最終ステージは東京。大井埠頭の周回コースで開催された。アップダウンのない1周7kmのコースを16周する112kmで争われるスプリンターステージ。高速で周回する集団や、迫力あるゴールスプリントを間近で見られるとあって、会場には例年多くの観客が押し寄せる。

個人総合の首位を行くクリス・ハーパー(オーストラリア、チーム・ブリッジレーン)は、2位のベンジャミ・プラデス(チーム右京)に40秒の差をつけ、個人総合優勝に王手をかけている。タイム差がつきにくいステージであり、グリーンジャージは無事完走さえすれば、ほぼ確定と言えるだろう。山岳賞ジャージを着るフィリッポ・ザッカンティ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)はもうすでに山岳賞を確定させている。一方、ポイント賞に関しては、この最終ステージでも、着順で最大25ポイント、レース中のスプリントポイントでも最大15ポイントの獲得が可能。ブルージャージを着るフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)の次点には、同ポイントでレイモンド・クレダー(チーム右京)が迫っており、さらに逆転圏内にも多くのライダーがひしめき合っている。このステージの行方次第で、ジャージが入れ替わる可能性は大いに残されている。

[caption id="attachment_31213" align="alignnone" width="640"] ファンのサインに応じるザッカリン。選手と触れ合えるのも現地観戦の魅力[/caption]

[caption id="attachment_31214" align="alignnone" width="640"] チームカーが並ぶチームピットのフェンス越しにファンが集まり、目当ての選手に声をかける[/caption]

例年の大会では、日比谷公園前をスタートし、大井埠頭に向けパレード走行をしていたのだが、今大会はアメリカ大統領の来日による警備の関係で、日比谷からの走行が許されず、大井埠頭内の周回のみでの開催となった。

朝から射るような日差しが照りつける中、選手たちがスタートラインに並ぶ。この日は今年最高の気温を記録するほどの暑さとなった。

[caption id="attachment_31215" align="alignnone" width="640"] にこやかにスターターを務めた小池知事[/caption]

スターターは小池百合子都知事。昨年は表彰式のプレゼンターとしての登場だったが、今年はスタートの号砲を鳴らすべく会場に駆けつけた。パレード走行には、自転車アンバサダーのタレントの稲村亜美さんも参加。多くのメディアが集まる中でパレードがスタートした。

[caption id="attachment_31216" align="alignnone" width="640"] レースに先立ち、華やかなパレード走行が行われた[/caption]

[caption id="attachment_31217" align="alignnone" width="640"] 道いっぱいに広がり、ゆったりとパレードする選手たちに沿道から声援が飛ぶ[/caption]

[caption id="attachment_31218" align="alignnone" width="640"] 稲村亜美さんはクロスバイクで参加[/caption]

にこやかな3.6kmのパレード走行のあと、アクチュアルスタートが切られると、なんとしてもこのステージを狙いたいチームが動き出す。すぐにアタックがかけられたが、逃げが決まらぬまま、1周目を終えた。

今ステージも混戦となるかと思いきや、2周目に入ると、ディフェンディングチャンピオンであるマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)がキレのあるアタックをかけ、圧巻のスピードでタイムギャップを稼ぎだし、独走状態に。ほどなくチームメイトのサルバドール・グアルディオラ(キナンサイクリングチーム)、安原大貴(マトリックスパワータグ)、フン・カホー(HKSプロ・サイクリングチーム)が追走を始め、4周目に合流、キナン2名を含む4名の逃げ集団が形成された。

メイン集団はリーダーを擁するブリッジレーンがコントロール。逃げ集団は協調し、ペースを守り、メイン集団とは3分以上のタイムギャップが開いていった。

[caption id="attachment_31219" align="alignnone" width="640"] 落ち着いて走るクリス・ハーパー。集団内で走りきれば総合優勝が手に入る[/caption]

[caption id="attachment_31220" align="alignnone" width="640"] 高速で走る選手たち[/caption]

折り返しを越え、8周目頃からメイン集団のペースが上がり始め、徐々に先頭集団とのギャップを狭めていく。タイムギャップが2分を切り、残り5周に入ろうという頃、逃げ集団からガルシアが再度アタック。ディフェンディングチャンピオンの意地とプライドを見せたアタックに大いに沸く観客たち。ここにチームメイトのグアルディオラがジョインし、2名は協調し、逃げ切りに向けて走り出した。ガルシアもグアルディオラも脚質的には平地系ではないのだが、それでも1分程度のタイムギャップを守ったまま、ただひたすらゴールに向けて走り続けた。

[caption id="attachment_31221" align="alignnone" width="640"] 逃げ集団から飛び出したマルコス・ガルシアとサルバドール・グアルディオラ[/caption]

[caption id="attachment_31222" align="alignnone" width="640"] 高速で走り抜ける選手に声援を送る観客たち[/caption]

このステージの優勝を狙うスプリンターを有するチームが、メイン集団の牽引に選手を一人ずつ拠出し、集団のペースアップを図り始めた。逃げる2名とのギャップは刻々と縮まっていく。ラスト2周、タイムギャップは30秒となり、メイン集団は2名を視界に捉えるところまで迫る。

[caption id="attachment_31223" align="alignnone" width="640"] 逃げる2名を捕えるべく、メイン集団のスピードが上がっていく[/caption]

[caption id="attachment_31224" align="alignnone" width="640"] 全力で声援を送るサポーターたち[/caption]

最終周回を告げる鐘がなる頃、逃げ切りをかけて死力を尽くした2名が吸収された。ここから、新たに各チームはゴールに向けたフォーメーションを組んでいく。各チームのトレインが組まれ、位置取り合戦が始まった。各チームがエースを連れてラスト200mのホームストレートに突入、スプリンターたちのスプリントが始まる。ダントツのスピードで伸びてきたのは、窪木一茂(チーム・ブリヂストンサイクリング)だった。

[caption id="attachment_31225" align="alignnone" width="640"] スプリントを制したのは窪木一茂。後方ではチームメイトがガッツポーズ[/caption]

ハーパーは集団内で確実にフィニッシュ。グリーンジャージと25歳以下の首位であるホワイトジャージの2着を獲得。ザッカリンも完走を果たし、山岳リーダーのレッドジャージを獲得した。

[caption id="attachment_31226" align="alignnone" width="640"] 各色のリーダージャージを守ったズルロ(左)、ハーパー(中央)、ザッカリン(右)[/caption]

[caption id="attachment_31227" align="alignnone" width="640"] 各賞リーダーのシャンパンファイト[/caption]

このステージでもゴール前の接触があり、逆転をかけ勝利を狙ったクレダーは優勝争いに絡むことができず、ポイント賞はこの日2位でフィニッシュしたズルロがキープした。

個人総合優勝を狙える位置につけていながら、不運過ぎる落車で順位を落とし、身体にもダメージを負った増田成幸(宇都宮ブリッツェン)は、出走も危ぶまれたが、この日もレースを走り、集団内でフィニッシュ。個人総合10位で大会を終えた。勝利をつかむには運という要素も重要であることも思い知らされる大会でもあった。日本人最高位は7位の石橋学(チーム・ブリヂストンサイクリング)となり、チーム総合はチーム右京が獲得した。

[caption id="attachment_31228" align="alignnone" width="640"] チーム優勝を勝ち取ったチーム右京[/caption]

[caption id="attachment_31229" align="alignnone" width="640"] 見事ステージ優勝を飾った窪木とチームブリヂストンサイクリング[/caption]

ステージ優勝とブルージャージ獲得をチームの目標として走ったという窪木は「ブルージャージはとれなかったが、ステージ優勝という目標をチームで叶えられたので、とても満足している」と喜びを語った。

この日の観客動員は48,000人。大会の冠スポンサーであるNTNは各ステージで「回る学校」を開校、子供たちを中心に、多くの来場者が足を止め、ベアリングを製造する同社の強みを生かし、棒の配置次第で好きな曲を奏でられる「回る」楽器や、めずらしい世界の楽器を奏でたり、ベアリングの組み立てに挑戦したりと楽しんだ。さらに全ステージで子供自転車教室「ウィーラースクール」が開催され、各開催地の子供達が楽しみながら自転車のルールや、正しく自転車を使うためのテクニックの習得に取り組んだ。

[caption id="attachment_31230" align="alignnone" width="640"] NTNの回る楽器[/caption]

[caption id="attachment_31231" align="alignnone" width="640"] 世界の楽器で遊ぶ子供たち[/caption]

[caption id="attachment_31232" align="alignnone" width="640"] ウィーラースクールで集団走行にチャレンジする子供たち[/caption]

レースの合間にも、沿道で声援を送り続けるだけでなく、展開の緩む時間帯には、大型ビジョンや、無料で配信されていたレース中継をスマートフォンなどのデバイスで受け、進捗をチェックしながら、会場で提供されるグルメを楽しんだり、ブースめぐりをしたりと、レースと同時に会場をも楽しむ来場者の姿が目立った。

[caption id="attachment_31233" align="alignnone" width="640"] レースの行方をチェックしながらグルメを楽しむ来場者たち[/caption]

今年も、TOJは開催地域と手を携えながら、レースを開催するだけでなく、開催地の魅力を発信するとともに、来場者に向けて自転車の魅力を伝え、活用普及を提案するイベントになっていた。

今年もレース自体も目の離せない展開となり、観戦し甲斐のある大会であったが、年々来場者を楽しませるおもてなしやレースを理解してもらうための情報提供は進化しており、必ずしもサイクルロードレース観戦ファンでなくとも楽しめるイベントになってきているのを感じる。

総走行距離767.6km、総獲得標高12,854mの戦いが幕を下ろした。8ステージに渡って死闘を展開した選手たちに拍手を送るとともに、また来年の同大会にも期待したい。

 

【第8ステージ結果】

1位 窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)2時間23分1秒

2位 フェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)

3位 オールイス・アルベルト・アウラール(マトリックスパワータグ)

 

◆個人総合成績

1位 クリス・ハーパー(チーム・ブリッジレーン)19時間49分57秒

2位 ベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(チーム右京)+40秒

3位 ホセ・ビセンテ・トリビオ・アルコレア(マトリックスパワータグ)+51秒

 

◆総合ポイント賞

1位 フェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)87p

2位 窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)80p

3位 レイモンド・クレダー(チーム右京)75p

 

◆総合山岳賞

1位 フィリッポ・ザッカンティ(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)33p

2位 クリス・ハーパー(チーム・ブリッジレーン)15p

3位 エミール・ディマ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)12p

 

◆総合新人賞

1位 クリス・ハーパー(チーム・ブリッジレーン)19時間49分57秒

2位 ドリュー・モレ(トレンガヌ・INC・TSG・サイクリングチーム)+1分29秒

3位 小林海(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)+2分45秒

 

◆チーム総合

1位 チーム右京 59時間37分53秒

2位 マトリックスパワータグ +1分41秒

3位 インタープロサイクリングアカデミー +8分14秒(P-Navi編集部)

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