2022/09/29(木) 12:31
「シマノ鈴鹿ロード」が帰ってきた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2年連続で中止となった国内最大規模の自転車の夏を象徴する大会が8月20日、21日に3年ぶりに開催されたのだ。
「シマノ鈴鹿ロード」とは、鈴鹿サーキットを舞台に、2日間に渡り、多様な設定のサイクルロードレースを中心に展開される伝統ある自転車の複合イベントで、今回は37回目の開催となる。
2日間の参加延べ人数は、例年1万人を超えていたが、今年は万全の感染症対策を施し、6割ほどに抑えての開催だ。それでも、ロードレースの大会としては、世界でも最大規模と言えるだろう。初日だけで40を超えるレースが開催。個人ロードレースだけ見ても、異なる年齢、周回数、参加資格(ハイレベルのレースのみ)などを設定され、他には類を見ない細やかなカテゴリー分けが施されている。実力の近い参加者同士が競い合うことができ、ビギナーでも参加しやすく、トレーニングを積んだレーサーにとっては、自分のレベルに合った年に一度の実力試しの機会となる特別なレースを経験できる。個人ロードレースのみでなく、タイムトライアルや、耐久レースも盛り込まれており、チームで参戦し、ステージレースで競う種目に関しては、参加が抽選になるほどの人気ぶりだ。
子どもレースも学年別に設定され、多くのキッズライダーが参加した
ベテランレーサーのレースまで、幅広く設定
最上級レベルとなる、JCF(日本自転車競技連盟)登録者に限定した「シマノロードクラシック」は2日間の目玉レースとなる。ホビーレーサー向けのものとしては、実際のプロ選手とともに競い合う貴重な機会であり、国内最高峰のレースのひとつである。参加者の安全安心を守る工夫も施されており、安全かつ効率良くレースを走るための「初心者講習会」が受講料無料で両日8回開催される。講師を務めるのは、なんと日本人とし
て初めてツール・ド・フランスを走った今中大介さん。今中さんの講座が無料で受けられるとあり、受講者のモチベーションも非常に高かったようだ。
今中大介さんが講師を担当。経験を交えて語ったアドバイスが好評だった
また、自転車を国技とするベルギーの自転車トレーニングメソッドを基に「楽しい自転車教室」を展開するウィーラースクールも、子ども、大人向けに開催され、プロ選手も講師に加わり、自転車の正しい乗り方を学べる機会が提供された。
スクールも連日開催
「知っとく講座」では、管理栄養士などがレクチャー
「知っとく講座」として、「コロナ太り」を解消するための脂肪燃焼の方法や、食事の仕方をスポーツ管理栄養士などがレクチャーする講座も無料で両日開催された。PRブースエリアには、たくさんのブースが並び、自転車やアクセサリー、サプリメント、デバイスなど、さまざまな商品が紹介され、自転車の試乗も楽しむことができる。
ブースが並び、終日にぎわった出展社PRブースエリア
専用コースが設営され、ブースに展示されたバイクの試乗も楽しめる
例年は、このプログラムの多様さ、面白さから、応援のために参加者と共に訪れる家族や仲間、観戦やイベントを楽しむために訪れる来場客も非常に多く、参加者の数以上に会場はにぎわっていたが、今年は感染予防対策とし、招待チケットを持つ方のみ来場できるシステムとなった。その代わりに、なんと全レースが無料でライブ中継され、さらには大人のレースのいくつかには、バーチャルシステムを使用し、自転車レースでは逆回りで使用する鈴鹿サーキットを完全に再現したサーキットでバーチャルレースを行うカテゴリーも設定された。表彰式はないものの、ネット環境さえあれば、どこからでもシマノ鈴鹿に参加できる環境が提供され、世界のどこからでも、シマノ鈴鹿を楽しめるようになった。
※いよいよ、レースがスタート!
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、進化したシマノ鈴鹿は8月20日、3年ぶりに幕を開けた。連日参加者の朝は早く、朝4時にゲートがオープンし、5時半から受付開始、6時15分からコースの試走が始まる。7時から初心者講習会が始まり、レースは、分刻みのスケジュールで次々と展開されていく。
まずは5ステージで競われる強者たちのステージレース、「5ステージスズカ」の第1ステージがスタート。ここから2分おきの出走で、5周するカテゴリーのレースが2組出走し、3組目は、バーチャル組がスタート。中継映像は、リアルのサーキットと、バーチャルのサーキットを混ぜて映し出すが、実際に撮影した映像を基に作成しているため、バーチャル映像は、切り替わっても一瞬わからないほどの「リアル」さだ。
毎年大人気の「5ステージスズカ」。ロードレース、タイムトライアルから構成される5ステージの総計で順位を競う
暑さの中、直前まで保護者がケアして子どもたちを送り出す光景も夏の定番
キッズレースも高学年では、バイクも、レース運びも、風格も大人顔負けのレベルに
一斉スタートとなる「1時間サイクルマラソン」。スタートは圧巻だ
1時間耐久の「サイクルマラソン」、小学生の各カテゴリー、さらにはタイムトライアルバイクで参戦する「個人タイムトライアル」が開催され、パラサイクリングの「ハンドサイクルエキシビジョン」が始まった。手でこぐ種類の自転車なのだが、多くの来場者がその走りに見入っていた。このハンドサイクルはゴール後展示され、希望者は乗車体験ができるように取り計らわれていた。
国内ではまだ少ないハンドサイクルのレース
マシンに、その走りっぷりに、注目が集まった
初心者講習会受講後にコースを1周レース走行する「体験レース」や、周回数で区切られた各カテゴリーのリアル、バーチャルのレースが続々と開催され、午後は「チームタイムトライアル」「2時間エンデュランス」「個人タイムトライアル決勝戦」などが行われる。
3~4人のチームで連携してスピードを保ち、競い合うチームタイムトライアル
「チームタイムトライアル」とは1チーム3~4人で先頭交代をしながら走り、3番目の選手がゴールした時間を競うレース。タイムトライアルでは、空気抵抗を削ぎ落とした「タイムトライアルバイク」にまたがり、上下つながったウェア「エアロワンピース」を着て、「エアロヘルメット」をかぶるのが競技スタイルだが、もちろんこの大会での装備は自由だ。シマノ鈴鹿では、個人とチームのタイムトライアルが設定されているが、競技選手向け以外の大会で開催されるケースはまだ少なく、この大会の名物のひとつでもある。まさにマシンと呼べるタイムトライアルバイクには憧れも強く、この種目を目指し、全装備を固めて臨む参加者も少なくない。
オープン参加ではあるが、ホストチームのシマノレーシングも参戦
笑顔の女子チームも
今回は、レディース、JCF未登録、登録の3つのカテゴリーで開催された。特にJCF登録は国内プロチームも参戦、その速さに会場は大いに沸いた。「先頭交代」をするというところで、競技選手の種目という印象が強かったのだが、スポーツバイクに乗り始めたばかりという女性たちが笑顔で参加しているなど、実際は、本気で記録を狙い込むというより「チームタイムトライアル」という経験を楽しむ参加者も増えてきているようだ。レースの上では、宇都宮ブリッツェンが、自らが過去に残した記録を大きく破り、驚異のコースレコードを打ち立てて優勝。個々のレベルの高さ、チームワークのよさを見せつけた。
「2時間エンデュランス」は、もっとも参加しやすい種目のひとつ。ソロだけでなく、チーム参加も多く、とても華やかだ。
チーム参加の選手が交代するピットでは、チームメイトたちが待ち受ける
1日目最後の種目は「個人タイムトライアル決勝」。18時25分スタートだ。予選を勝ち抜いた完全なタイムトライアル装備のツワモノたちが、ホイールが鳴る音を響かせながら、ひとりずつ出走していく。スピードゼロからのスタートで、サーキット1周7分11秒47(平均時速48.39km/h)というこれまでの記録を大きく打ち破るレコードを叩き出した荻野徹さんが優勝を決めた。レースが進行するにつれ、日が暮れ、表彰式は完全に日が落ちて、照明の下で開催され、非常にドラマチックだった。ここで、早朝から日没まで、長く濃厚な1日目が終了。
すっかり日が暮れ、ライトアップされたタイムトライアルの表彰式。予選を勝ち抜いたメンバー全員で記念撮影
※2日目も楽しみなレースが盛りだくさん!
2日目も、早朝から動きが始まり、6時15分の試走から、参加者が走り始めた。この日は10歳刻みの年齢別にカテゴリーが決まる「マスターズ」からスタート。ベテランの「60+」カテゴリーには、最高齢に当たる複数の78歳選手が参加しており、堂々たる走りを見せた。アップダウンのある鈴鹿サーキットでの個人ロードレースに78歳で参加、完走できるとは。そのしゃっきりとした年齢を感じさせないたたずまいを見て、鍛錬を続けていれば、人間はある程度、老化を食い止められるというのは本当だなと、しみじみ感じる一幕だった。
「マスターズ60+」には70歳代のレーサーも多く、最高齢は78歳!
中学生や小学生のレース、レベルの高い「7周レース」「エリートレース」を経て、最後はJCF公認大会である「シマノ鈴鹿ロードレースクラシック」だ。女子は同一系列のチームからの出走者が多く、逆に選手間のかけひきが注目を集めたが、その難しいレース運びの中で髙橋由佳(バルバクラブエチゼン)が優勝を勝ち取った。
難しいレース運びの中で、髙橋由佳(バルバクラブエチゼン)が優勝
クラシック女子は同系列チームが表彰台を占めた
男子は、国内の主要プロチームが参戦するハイレベルな戦いになる。スタート前に2名の選手の今季引退が発表され、花束が渡された。吉田隼人(マトリックスパワータグ)は子どもの頃から参加してきたシマノ鈴鹿で引退したいとの希望で、これをラストレースと決めたという。中島康晴(キナンレーシングチーム)も同郷の元プロ選手から花束をもらい、声をつまらせていた。奇しくも、この2名はスプリンター。有終の美を飾らせたい2チームが彼らをどう押し上げるかもレースの上では注目された。
マトリックスパワータグが集団をコントロール
サーキットを10周する58.1kmのレースがスタート。冒頭から、ハイスピードの展開となった。アタックが頻発するが、どれも形にはならない。吉田を抱えるマトリックスパワータグが集団をコントロールすべく前方を固めた。動きが出たのは6周目。東京五輪ロード日本代表の増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、風間翔眞と天野壮悠(シマノレーシング)、花田聖誠(キナンレーシングチーム)、国内リーグのJプロツアーで首位を行く小林海(マトリックス・パワータグ)が抜け出しに成功したのだ。実力者を含むこの逃げに警戒感が高まる。
だが、他チームもメイン集団の追い上げに協力し、最終周回前に5人が吸収され、振り出しに戻った。各チームは集団スプリントに向けての準備態勢に入った。最終コーナーを回り、小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)が先行したが、大本命のレイモンド・クレダー(チーム右京)が強烈に追い上げる。さらには、ラストレースに全身全霊をかけ、臨む吉田も渾身の伸びで食い込んできた。
白熱のゴールスプリント。僅差でレイモンド・クレダー(チーム右京)を下した小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)が優勝
レース後はシャンパンファイト! 引退を表明した2名も表彰台に上り、祝福を受けた
ほぼ同時にフィニッシュラインに飛び込んだ3名だが、映像判定の結果、小野寺の勝利が告げられた。宇都宮ブリッツェンは、チームタイムトライアル、クラシックともに優勝を飾る結果となった。また、クラシックでは、3位に吉田隼人、4位に中島康晴と引退を表明した両選手が入り、選手個人と、送り出すチームの思いを感じる結果となった。
最後を飾るのは、最年少のレース。「車輪がついてさえいれば参加可能」という出走規定に、0歳から6歳までの未就学児たちが集まった。激戦の直後、鈴鹿サーキットを無邪気に駆ける子どもたちの愛らしい姿に、皆がほっこりと笑顔になり、惜しみのない拍手が贈られていた。
0歳から参加できる未就学児のレース「ミルキー」。ベビーカーでの参加ももちろんOK
笑顔のキッズライダー
2日目もレースやイベントの様子がライブでフルに動画配信された。
各レースではスターターを募集し、誰でもスターターを務めることができる
「楽しくてたまらない!」「シマノ鈴鹿最高!」参加者に感想を聞くと、こんな声が多く返ってきた今年のシマノ鈴鹿。「伝統の大会」から「誰でも楽しめる夏のお祭り」に変わってきているのを感じた
コロナ禍にありながら工夫を重ねて開催したシマノ鈴鹿ロードは大成功だったと言えるだろう。配信の視聴者数も主催者の予想より多かった。今年はリアルの参加を控えたが、来年は会場に戻ってくる」という参加者もおそらく多いことだろう。マスクの下に全開の笑顔を浮かべ、この2日間を楽しむ方々の姿が、とても印象的だった。
画像提供:シマノ鈴鹿ロード(株式会社シマノ)、編集部(P-Navi編集部)