全日本自転車競技選手権大会ロードレース

2022/07/12(火) 18:47

全日本自転車競技選手権大会ロードレース

広島県中央森林公園を舞台に6月24日から26日、「第90回全日本自転車競技選手権大会ロードレース」と、「日本パラサイクリング選手権ロード大会」が開催された。会期内のスケジュールは、24日の個人タイムトライアルから始まった。今年は女子の個人ロードレースはU23、エリートともに開催されない決断が下されたが、25日にはU23男子のロードレースが、最終日の26日には、マスターズと、注目が集まる男子エリートの個人ロードレースが開催された。


3年ぶりに開催された有観客の全日本選手権

今年の男子の注目選手を、まずご紹介しよう。UCI(世界自転車競技連合)最高位のワールドツアーで活
動する新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)。ツール・ド・フランスなどの世界最高峰のレースを含め、本場ヨーロッパのレースを転戦しているが、3回目になる全日本王者のタイトルを取得するべく、帰国してきた。先に行われた個人タイムトライアルにもエントリーし、金子宗介(群馬グリフィン)らに敗れ、3位で終えている。
ほかにも、海外チームからのエントリーとしては、同じくワールドチームに所属する中根英登(EFエデュケーション・イージーポスト)の欠場が決まり、系列の育成チームであるEFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチームから岡篤志らがエントリーしている。
国内リーグの注目選手は、同コースで昨年優勝したディフェンディングチャンピオンである草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)、JBCFロードシリーズで無敵の連勝を重ねている小林海(マトリックスパワータグ)、2019年の全日本チャンピオンである入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)ら。JCLリーグを走る選手の中では、昨年のリーグで個人総合優勝した山本大喜(キナンレーシングチーム)、東京五輪日本代表だった増田成幸(宇都宮ブリッツェン)らが注目選手として挙げられた。


増田成幸(宇都宮ブリッツェン)。患うバセドウ病の影響で、暑さが災いし個人タイムトライアルでは連覇を果たせなかった


コロナ前の最後の開催となった2019年の全日本を制した入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)


JBCFシリーズJプロツアーでは無敵の展開を続ける小林海(マトリックスパワータグ)

今回使用されるコースは、国内のロードレースの会場としてはおなじみで、過去に何回も全日本選手権の舞台になっているもの。1周12.3kmであり、アップダウンが連続し、たくさんのワインディングが含まれている。道幅は広くなく、スタート/ゴールエリアは現在行われている工事の関係で、さらに幅が狭められており、コースのキツさ、気象条件もあり、開始早々から人数が絞り込まれていくことが予想された。



ワインディングとアップダウンが連続する難コース 出典:JCF 全日本ロード要項より


道幅は狭く、隊列も狭められてしまう

男子エリートはこのサーキットを15周する184.5kmの設定だ。全日本選手権特有の緊張感が漂う中、スタートが近づくと選手たちが続々とスタートエリアに集まってきた。この時期、日本列島は連日の猛暑日となる暑さとなり、広島の気温は比較的低かったとは言え、照りつける太陽のパワーも相まって、体感気温はかなり高い。さらに湿度も高く、厳しい条件が揃った。3年ぶりに観戦が許された全日本選手権。広島空港からアクセスのよい会場であることもあり、多くの観客が、北海道から石垣島まで、まさに全国から集結した。


スタートラインに並ぶ選手

127名の選手がスタートラインに並んだ。184kmあまりの設定は、全日本選手権としては短い。どのような展開になるだろうか。
まずは松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)が飛び出したが、2周目にはメイン集団に戻った。その後もアタックはかけられるが、一年でもっとも重要なレース。メイン集団の先頭に立つ主要チームが、きっちりと危険な動きを排除し続け、本格的な動きには結びつかなかった。

集団はチーム右京やキナンレーシングチームがコントロール。リスクを回避するために、ペースを上げ、キツい展開に持ち込もうとハイペースで走る。キツければキツいほど、底力のある選手を抱える有力チームは有利な展開に持ち込めるのだ。計画は功を奏し、耐え切れなくなった選手が、ボロボロとこぼれ落ちていく。特に上りを得意としないスプリンター系の選手にとっては、きびしい展開になったようだ。アップダウンがきつく、続くワインディングで先が見通せないこのコースでは、一度脱落した後、このペースの集団に追いつくのは至難の技といえるだろう。


キナンレーシングチームが集団をコントロール

大きな動きが出たのは、折り返しを越えた8周目。逃げのスペシャリスト阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)や、小森亮平(マトリックス・パワータグ)、河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)が集団から飛び出したのだ。レースをコントロールするキナンレーシングチームは落ち着いてタイム差をキープ。


4名で先頭をゆく

白川幸希(シエルブルー鹿屋)が単独で先頭に追いつき、4名になったが、集団から河野がこぼれ、再び3名に。集団は1分程度の差をキープしていたが、ペースを上げ、先頭との差を詰めていく。優勝候補だった岡篤志は転倒した影響でリタイヤし、小林海もレースを去り、選手たちが本格的に絞り込まれていった。
一気にペースを上げた先頭集団が、先頭3名を飲み込んだ。ここでタイミングを図っていた小石祐馬(チーム右京)が飛び出し、単独で先頭を走る。この時点で、メンバーはすでに絞り込まれていた。


単独で先頭を行く小石祐馬(チーム右京)

ラスト2周のタイミングで、集団が小石を捉え、レースはいよいよ最終局面に。集団は15名ほどに絞り込まれた。新城のアタックがかかり、集団がふたつに割れた。ここでメンバーはさらに絞り込まれていく。


絞り込まれた集団はふたつに割れ、7名が先行した


新城の動きは、きっちりとキナンレーシングチームがチェックする

タイミングを見計らっていた山本大喜が鋭いアタックをかけた。山本を新城幸也が追い、その幸也の後ろには、同じ石垣島にルーツを持つ新城雄大(キナンレーシングチーム)がピタリとつく。キナンは最後の展開に4名を残しており、集団に残ったメンバーが集団を抑え、最良の展開だ。


単独でアタックした山本大喜(キナンレーシングチーム)


山本大喜を追う新城幸也と、その後ろにピタリと付く新城雄大(キナンレーシングチーム)

だが、新城幸也は最終周回の上りで山本大喜を捕らえてしまう。さらに続く上りでキナン勢を切り離すべく、アタック。だが、ここまで脚力を溜めていた新城雄大は離れなかった。先頭を走る幸也と、食らいついて離れない雄大。ここまでの消耗度合いからして、雄大が有利かと思われた。
ホームストレートには、幸也、雄大の順に現れた。雄大がスプリントを仕掛け、その後ろに幸也が付く。幸也は冷静に雄大の後に付き、ラスト100mでスプリントを開始し、着実に競り勝つと、ガッツポーズで勝利を勝ち取った。3回目の全日本チャンピオンだ。


新城雄大が先にスプリントを仕掛ける


冷静に勝負し優勝を決め、ガッツポーズの新城幸也

ベテランらしく、単騎の参加でありながら、しっかりと勝利を勝ち取った新城幸也は、満足した笑顔で表彰台に立ち、「非常に自身へのマークがきつく、自由に動けないため、他の動きを待っていた」と語った。山本大喜が飛び出した終盤の展開は、優勝への戦略を探る上で、とても好都合なものになったという。欧州の最高峰のレースは、強度が高く、さらに長い。そこを主戦場とする新城幸也のスタミナと、その上に立つ冷静な判断力が光ったレースだった。


上位3名の表彰台。厳しいレースを経て確保した表彰台の価値は大きい

一方、完璧な展開に持ち込みながらも優勝を逃した新城雄大、山本大喜は終始、悔しさを滲ませていた。この日の完走者は127名中、29名。非常に厳しいレースとなった。全日本選手権が終わり、ロードレースのシーズンは後半戦に入る。今後、新城幸也は日本チャンピオンジャージを着て、欧州を転戦する。今年はUCI認定の国際レースの開催も復活が予定されており、国内でも見応えのあるレースが展開されることになるだろう。

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【結果】全日本自転車競技選手権大会ロードレース 男子エリート(184.5km)
1位/新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)4:36:28
2位/新城雄大(キナンレーシングチーム)+0:00
3位/山本大喜(キナンレーシングチーム)+0:15
4位/中井唯晶(シマノレーシング)+0:45
5位/岡本隼(愛三工業レーシングチーム)+0:49

画像:Satoshi ODA(P-Navi編集部)

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