2022/02/11(金) 18:17
雪や氷の上を極太のタイヤを履いたファットバイクで走るスノーライド。ここ数年、全国でメジャーなアクティビティになってきており、スキー場のゲレンデなどで体験できる場所が増えてきた。北海道北見市では、冬季常設の専用コースに加え、公道をファットバイクで走り、カーリング体験をも合わせて楽しむ贅沢なプランが立ち上がり、試行が行われた。
雪上を走るスノーライド。今回は一般公道を走り、移動手段としても使用する
今回の試行には、弱虫ペダルサイクリングチームの唐見実世子さんも参加されることになった。チーム内ではコーチとしても活動されている選手だ。アテネ五輪にもロード種目で出場されており、春から秋はロードレースを走っているが、冬の競技であるシクロクロスでも日本のトップで活躍されており、今年度のマスターズの全日本チャンピオン。今回は競技から離れ、レジャーとしてプランを体験することになった。
バスから降り立つ唐見実世子さん
朝8時10分。北見バスターミナルから、北見バスの常呂線に乗車。通学する高校生とともに、バスに揺られること20分あまり。雪に埋もれる「ノーザンアークリゾート」バス停に到着した。この施設に設営されている自転車用のフィールド「ヒーローズパーク」では、冬季はスノーバイクが楽しめるのだ。
ヒーローズパーク主宰のヒロさん。情熱をかけてこの美しいコースを管理・運営している
さっそく、「ヒーローズパーク」主宰のヒロさんと合流。このコースは、ゴルフ場のカートコースをベースにヒロさんが小さな除雪機を使い、丁寧に除雪を繰り返し造り上げている。「除雪車を入れたら作業は簡単だけど、ルートはキレイではなくなってしまうんです」と苦笑するヒロさん。広大なゴルフ場の美しい自然の中に伸びる美しい回廊のようなコースは、ヒロさんの日々の壮大な苦労の積み重ねがあって成り立っているもの。
今年は積雪量が極めて多く、除雪作業が難航した。安全を確保できるコース設営が難しく、この時点ではエリアを限定した3km程度のショートコースが設営されていた。丘の上まで上り、帰ってくるコースだが、アップダウンもあり、十分走りごたえがあるという。
今回は、お借りするファットバイクとともに、コースのスタート地点まで車で上げてもらうことになった。スタート地点でバイクのフィッティングを行う。サドル高を合わせ、またがってフィット感を確認し、いざコースへ。
フィッティングを済ませ、出発!
前日夜半から雪が降り、固めてくれていたコースの上に積もってしまったため、少し難しいコンディションになっているようだ。ヒロさんが早朝から再度除雪をし、走りやすいように整えてくれたのだが、雪は降り止まず、コース全体を覆い続けていた。「雪が積もってしまったので、ちょっと走りにくいかもしれません」と苦笑するヒロさん。走りやすさは別として、ふわふわの真っ白な雪が積もったフィールドは最高に美しく、おとぎ話の世界のよう! ファットバイクにまたがり、コースに漕ぎ出した。
雪の中のコースを走る
広大なゴルフ場の中に設営されたコース。ライダーを取り巻くのは自然のみだ
唐見さんはコースに踏み出し、初めての感覚に、思わず、「うわー! 楽しい!!!」と声を上げる。同じ自転車でありながらも、ロードとも、シクロクロスとも、マウンテンバイクともまったく感覚が違うという。さすがのバイクコントロールで、軽快にバイクを進めていった。
コースがふわふわの雪で覆われ苦戦するが、それを含めて新しい経験。感覚を楽しめる
筆者も一行の後を追ったが、ふわふわの路面は、体験したことのない感覚だった。ファットバイクは太いタイヤが衝撃を吸収するため、そもそもソフトな乗り心地なのだが、さらに雪に吸収されていくような感覚。ペダルを踏み込んでもタイヤが路面に噛まず、ペダルが空転し、うまく進めないこともある。バランスを崩しても、えい!と、勢いで乗り切ればいいのだが、ブレーキをかけてしまうと、再スタートに手間取って遅れてしまう。そんな雪との駆け引きも、このふわふわの感覚も楽しい。美しい雪景色の中を自転車で抜ける特別感は格別だ。
舗装道路の上ならなんなく走れる小さなアップダウンも、雪の上では大仕事。躊躇(ちゅうちょ)すると止まってしまうので、ギアを軽くし、焦らずにペダルを回し続けるしかないのだが、やはり何度も止まってしまった。筆者の脚力では、押し歩いた方が速いこともあり、時に開き直って押して走る。そのたびに皆で大笑いだ。気温はもちろん氷点下だったが、雪との戦いで汗だくになった。吸汗即乾素材のスポーツインナーを着てきて正解。冷気が吹き付ける指先だけが、センサーのように気温が低いことを語っていた。
「茶屋」に到着。「営業中」の札がかかっていた
ようやく丘を上り切った地点にある「茶屋」に到着。入り口の「営業中」のサインに笑っていると「本当に営業してるんですよ」と、ヒロさんは微笑んだ。温かい飲み物のほか、カップラーメンも作れるという。
それぞれドリンクをオーダーし、北見名物のミントクッキー、メンビスをいただいた。カラダがホカホカで、感覚が狂っていたが、ここは氷点下の世界。メンビスのチョコがキンキンに冷えていて、新鮮な食感だった。
温かいドリンクと北見名物のメンビスをいただく
美しい雪景色を眺めながら、ほっこりと休憩
広い窓の外に広がるのは一面の雪景色。誰ひとりおらず、静かで美しい景観が広がっている。冬の美しいゴルフ場を独占し、楽しめるなんて、なんと贅沢な経験であることか。
しばしゆったりと時間を過ごし、再スタート。「茶屋」から出ると、空気が驚くほど冷たく感じられた。ここからスタート地点に向け、来た道を降る雪の中のダウンヒルだ。
スタート地点に向けてダウンヒル。思い切りが大切!
ふわふわに積もった雪の道は、どのラインを追って走ったら走りやすいのか、見分けがつかない。不安もあり、戸惑ったが、実際はタイヤが太く、安定感があるため、怖がらずに走ってさえ行かれれば問題ないようだ。怖くなって急ブレーキなどをかけると、バランスを失ってしまう。とはいえ、たとえ転んでも、待ちうけているのはふっくらと積もった雪。雪まみれになるのみで、痛くないから安心だ。
少々のアップダウンもあるコースを楽しむ
美しい木々の間を抜けて走っていく参加者たち
ゴルフ場自体の景観も美しいけれど、このコースは高台に位置し、北見の町も見渡せるため、広がりのある最高の景観をも楽しめるのも魅力だ。
グラッと揺らぐたびについつい声が出るが、純白の世界の中を順調に降り、少々のアップダウンを越えて、出発地点に戻ってきた。ここまででも、すでに満足だ。
スタート地点に帰着。ここからはいよいよ公道パートに向かう
「では、ここからは公道に出ますから、気をつけて行きましょう!」
笑顔のヒロさん。この日のために、試走し、農道を中心とした安全に走れるコースを設定してくれていた。
このあとは、スイーツ補給とランチ、さらには待望のカーリングが待っている。まだまだ盛りだくさんだ。
道路標識を見て、すでに公道に差し掛かっていたことに気づく。気を引き締めて行こう!
ヒロさんに付いて走っていくと、気づかないうちに施設の外に出ており、公道に差しかかっていた。すべてが雪で覆われているため、場所の感覚が非常に鈍くなっている。クルマのドライバーも、雪で覆われた道は安全を優先して走るため、通常とは異なるレーンで走ることも多い。ウエアやアクセサリーはよく目立つ明るい色味のものでそろえ、ドライバーに遠方から目視してもらえるようにした方が安心だ。
景観の良い道を抜けていく。ごく普通のサイクリングのように走れるのが不思議
立てられたポールを目印にコーナーを曲がる。雪の中の道は全てが新鮮だ
田畑は雪で覆われ、農作業が行われないため、農道の交通量は極端に少ない。とはいえ十分な除雪は施されているため、スパイクタイヤを履いたファットバイクであれば、普段通りにペダルを回し、快適に走行することができた。一面に広がる真っ白な平原の間をひた走る。こんな経験があったとは!
「Shiga」に到着!待ちわびたスイーツタイムだ
スイーツ選びも真剣勝負!?
農道から幹線道路の歩道に入り、地元で人気のスイーツ店「Shiga」に入った。歩道は雪が積もっており、少し注意が必要だ。甘い香りが満ちた店内では、美味しそうなスイーツに目移りしたが、小ぶりのスイーツをチョイス。注文してからクリームを詰めてくれるコロネやシュークリームを店の外でパクリ。皮はサクサク、クリームはほどよく濃厚で、おいしさに感動の声が上がる。「あと5kmほどです。ランチまで、がんばりましょう!」。笑顔のヒロさん。エネルギーをチャージして、再出発だ!
店の外でパクリ。甘さが身にしみる
ここからまた農道に戻る。皆、ランチが楽しみなことと、走行に慣れてきたことで、一気にスピードが上がった。時折行き交うクルマのドライバーたちは、ファットバイクの一行に驚く様子を見せるが、とても親切に空間を開けて、ゆっくりと抜いてくれる。こういう地元の心遣いあってこそのツアーとも言えよう。
快調に走る参加者たち。ランチに向け、ペースアップ!
ほどなく、アスリート向けの宿泊施設「アスリートステイズ」に到着した。合宿などで利用する際には、自転車はシャッターを開けて荷物置き場に入れてもらうのだが、今回は滞在時間も少ないので屋外に停めさせてもらうことに。
「アスリートステイズ 」に到着!
眺望のよい4階の食堂エリアに上がると、ほどなくランチが運ばれてきた。管理栄養士さんが作ってくれたアスリート向けのメニューで、高タンパク、低脂質で、温野菜もたっぷり含まれている。通常は宿泊客のみへの提供だが、今回は特別に用意してくれたものだ。
アスリート向けのヘルシーなランチ。必要な栄養素がたっぷり含まれている
開放感のある食堂でランチをいただく
メニューは全て調理法もシンプルで味付けも控えめ。もちろん、ボリュームはたっぷりあり、使用されている食材の種類も、量も豊富で、物足りなさを感じることもない。運動した後ということもあり、よりいっそう素材のうまみを感じることができ、得した気分になった。身体が喜ぶランチだった。正直、毎日でも食べたい!
トレーニングルーム には必要なマシンが揃っている
キッチン完備の部屋も。調度品もセンスよく、とても過ごしやすい
宿泊室だけでなく、トレーニングルームやミーティングルーム、マッサーが使えるベッドなど、様々な競技のトップアスリートでも満足できる設備が整っている。市内で自転車やSUPなどのアクティビティーを楽しむ層でも応相談で利用可能とのこと。昨年夏に開業したばかりの施設だが、アフターコロナには、大いににぎわうに違いない。
居心地のよすぎる食堂に長居してしまい、うっかり遅くなってしまった。大急ぎで自転車にまたがり、カーリングホールへ向かう。
「アルゴグラフィックスカーリングホール」へ到着
目と鼻の先にある「アルゴグラフィックスカーリングホール」へ到着。この施設では、気軽にカーリング体験をすることができる。指導者の方がアテンドしてくださり、シューズなどの備品もレンタル可能であるため、事前予約さえすれば、誰でも体験可能だ。この日は1時間コースをお願いしていた。
ロビーでストレッチをし、基本姿勢の説明を受ける
まずはロビーでアドバイスを受けながら、プロテクターを装着し、ストレッチをする。念入りなストレッチをする理由は、カーリングでストーンを投げる姿勢にあった。テレビで中継を見ている時には何も感じなかったが、これが意外と難しい。利き足と反対の足を前に出し、膝を横に開く形で深く前屈するのだ。「いたたたたたた!」。思わず声をあげる唐見さん。日常でまず取ることのない姿勢。「これを氷上で?」。ややこわばった表情を浮かべる参加者たちに「まぁ、ともかくやってみましょう!」と、笑顔で移動を促す指導者さん。シューズを手に、シートに向かった。
カーリングで使う靴はソールの裏面が左右異なっており、利き足は滑らないソール、反対側は滑るソールが貼られている。今回は普通のシューズを使い、利き足と反対の足の下に、滑る板を入れて体験するようだ。
ついに氷上へ!おっかなびっくり歩いてみる
基本姿勢で滑る練習を繰り返す
まずは氷の上を歩き、続いて体勢を取る練習、そして滑る。段階を踏んでカーリングのベーシックスを体験するが、滑るソールの板上の足に重心を置き、バランスを保つのが難しい。「重心はもっと前に」「膝をもっと曲げてみて」指導者の方がアドバイスをくれるのだが、なかなか応じられないもどかしさ。ああ悔しい! でも楽しい!
ストーンをヨレヨレと投げるところまで体験し、あっという間に1時間が終了した。「いつかまたチャレンジを」と誓い、指導者の方にお礼を言って一行はカーリングホールを後にした。
この付近には徒歩圏にバス停も多く、複数の路線が北見バスターミナルに向かっており、時間に応じてバス路線を選ぶことができる。ヒロさんは自転車をクルマに積んで「ヒーローズパーク」に戻り、我々は路線バスで北見バスターミナルに向かったのだった。
スノーライドとカーリングを合わせた贅沢なプラン。ともにもっと巧みに走ったり、滑ったりするには練習が必要ではあるが、体験のハードルは意外と低く、存分に楽しむことができ、忘れられない経験になった。
最後はストーンを投げる練習へ。2時間コースなら、ミニゲームまで体験できる
ただ、ファットバイクで雪や氷の上を走る場合は、ガイドやインストラクターの方に帯同(先導)を依頼してほしい。自分の自転車を持ち込み、自己判断で公道を走るのは大変危険であり、その地域の方に、コースや走り方のアドバイスを受け、安全を確保してから、ルールを守ってトライしていただきたい。
カーリング体験は通年実施されているが、スノーライドを体験できるのは3月上旬まで。新型コロナウイルスの状況は考慮しつつ、興味のある方はぜひ。
ノーザンアーク HEROES PARK
画像:編集部 サイクルアドベンチャーオホーツク推進協議会 HEROES PARK
ライドの問い合わせはサイクルアドベンチャー推進協議会へ
※まん延防止等重点措置が出ていない1月上旬に、感染症対策を十分に行った上で実施しています。(P-Navi編集部)