2022/01/08(土) 17:14
石川県の能登ゴルフ倶楽部に今年「常設」のシクロコースが設置され、漫画とアニメで大人気の「弱虫ペダル」カップとして、フカヤDeLa TRAIL presents 弱虫ペダルカップin能登が、JCX(ジャパンシクロクロスリーグ)の公式戦として11月27日~28日に開催された。
この能登ゴルフ倶楽部の常設コースは、弱虫ペダルサイクリングチームと、元トップライダーであり、現在はシクロクロス日本代表チームの監督を務める三船雅彦氏の共同監修により作られた。ゴルフ場の起伏に富んだ地形を活かし、UCI(世界自転車競技連合)の規格にそった形で設計されたという。今後は、全日本選手権、そしてアジア初のワールドカップ開催を目標に据えているそうだ。
ゴルフ場の地形を生かし作られた常設コース
コースは変化に富んでいる
今回の大会は、このコースのオープン記念大会として急遽企画されたもの。とはいえ、各カテゴリーのレースに加え、三船雅彦氏による教室や、弱虫ペダルの作者である渡辺航氏とともに走れる時間も設定された。公式画像の撮影は、日本人として唯一、世界最高峰のレースであるツール・ド・フランスのバイク撮影が許されていた世界トップレベルのレースフォトグラファー砂田弓弦氏が担当。初回とは思えない充実した内容が盛り込まれ、同時に初回ながらも国内の各方面の最高峰のエキスパートが名を連ねての開催となった。
また、27日には、三船雅彦氏のジュニアと大人向けの実践コース攻略スクールの2つも開催された。
講師の三船氏の後をついて走る子供たち
ジュニアスクールには、子供たち相手に、走り方の基礎を、見本を見せながらわかりやすく解説。子供たちは、神妙な表情で話を聴き、三船氏のお手本を見て、実践する。子供たちの吸収は速く、見る見るうちに安定した走りへと変わって行った。
随所でポイントを説明
レクチャーを聞き、抜群の理解力で教わったコーナリングを実践するキッズライダー
大人向けのスクールは、より実践的な内容となった。海外でも活動し、数々のレースに参戦してきた三船氏。経験を基にした独自のメソッドは、すぐに取り入れられるものばかりで、参加者は夢中になってレクチャーを聴き、模範を食い入るように見て、参加者の満足度は非常に高かったようだ。
スクール後は、渡辺航氏とともに走れる時間帯が設定された。ここには最年少で小学校一年生のジュニアライダーも参加し、貴重な体験を楽しんだという。
ひとりひとりに声をかけながらメソッドを伝える三船氏
教わったポイントを意識しながら傾斜地の走り方を実践する参加者
この日は、ジュニアのタイムトライアルも開催された。小学生以上の子供達がそれぞれの自転車でコースを駆け抜ける。真剣な面持ちで、それぞれの全力を尽くす様子に、胸を打たれた大人も多かったようだ。
白熱したジュニアのタイムトライアル
この日の最終種目は、90分のエンデューロ。シクロクロスは非常に運動強度が高く、通常の冬季の状況下では補給も許されていないため、エリート男子でも競技時間は60分と規定されている。一人で90分走るとなると気が遠くなるほどハードだが、チームで交代しながら走っても、もちろん構わない。実際のところは、ソロでの参加も多かったようで、トップリザルトはこの難コースを13周回したソロ参加者だった。渡辺航氏もソロで参戦し、10周回を走り切っている。
ソロと4人までのチームの参加で競われたエンデューロがスタート
ゴルフ場の環境が生かされた起伏の多いコースを走る
コース内にしつらえられた大きな水たまりに突入する感覚を楽しむ参加者
弱虫ペダル作者の渡辺航氏も参戦を楽しんだ
28日はいよいよメインレース。
コースはゴルフ場のくぼみや傾斜を利用しており、起伏に富んだものに仕上がっている。シクロクロスレース向けに設計されたものでありながらも、バンカーやカート道も活かされており、随所に前身のゴルフ場としての姿が残っており、遊びゴコロのあるコースに仕上がっている。
開催前に雨が続いた影響で、コースの泥は水分を含み、重さを感じるコンディション。当然、キャンバー等の傾斜地もスリッピーで難度を増していた。エリートは午後開催が多く、前段階の開催レースで路面も荒れており、走りにくくなっていることが多いのだが、今コースにおいては、男子エリートのみ勾配28%の激坂を盛り込んだフルコースで開催され、未知の難度となった。
男子エリートのみ、28%という急勾配の激坂が盛り込まれた。まるで垂直に登る合成写真のよう
水分を含んだ泥の路面は重く、選手たちの体力を奪っていく
エリートの参加選手の顔ぶれは実に豪華だった。この前週に開催されたMTBの全日本選手権を制し、MTBとシクロクロスのダブルチャンピオンとなった沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が参戦。ライバルである織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)は、同じく前週の琵琶湖を制し、このレースに臨んだ。主要大会で一騎討ちを繰り返してきた二人の対決に注目が集まる。さらに、今季の表彰台の常連である小坂光(宇都宮ブリッツェン)もこのレースに挑む。全日本開催前最後のトップ選手たちの対決の場となった。
13時35分、最前列にトップライダーが並び、42名の選手がいっせいにスタートした。第一コーナーにトップで飛び込んだのは、最高に勢いに乗っている沢田時。このレースもチームが冠になっており、あらゆる意味で負けられない織田が沢田を追う。
いよいよ男子エリートレースがスタート。急遽の開催ながらトップ選手が揃った
織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)、副島達海(Limited Team 846)
早々に沢田、織田、そしてMTB全日本選手権のジュニアの部でチャンピオンとなった副島達海(Limited Team 846)の3名のパックが形成された。予想を上回るペースで3名は周回を刻んでいく。
ゴルフ場の跡が随所に見えるコースを行く香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム)
エリートレースの最高齢は57歳の小坂正則(スワコレーシングチーム)。小坂光の実父であり、いまだ力が衰えないスーパーマンだ。この日もトップカテゴリーを18位でフィニッシュ
4周目に入り、副島がここから脱落。以前のレースのリプレイを見るかのように、ここからは織田と沢田の一対一の戦いとなった。互いを見ながら、仕掛け合う動きもあるが、2名のパックが崩れるには至らず、このまま最終周回へ。
しかし、わずかに先行していた織田が、アップダウンのあるヘアピンコーナーで転倒、コーステープに絡み、復帰に手間取るアクシデントが起きた。この間に沢田は織田をかわして先行、このまま独走状態でフィニッシュラインに飛び込み、今大会の初代王者となった。
両手を誇らしげに挙げ、トップでフィニッシュした沢田時
3位のポジションを守り抜いた副島。堂々たる走りだった
13秒遅れで織田がフィニッシュに飛び込み2位となった。この大会も沢田と織田の二人の間で優勝争いが展開される形となり、圧倒的な強さを示す結果となった。
先頭からは脱落したものの、3位の位置を副島が単独で守り切って、表彰台の3名が確定した。小坂光は4位でフィニッシュ。
小坂光(宇都宮ブリッツェン)は表彰台は逃したものの単独4位
女子エリートも同日に開催されている。福田咲絵(AX cyclocross team)と渡部春雅(明治大学)がスタート後早々にパックを作った。好スタートを切ったものの、福田らにかわされてしまった中島瞳(弱虫ペダルサイクリングチーム)と望月美和子(ORCA CYCLING TEAM)が、セカンドパックを作り、先行する2名を追った。
女子エリートのスタート。中島瞳(弱虫ペダルサイクリングチーム)が好スタートを切った
先頭を行く渡部春雅(明治大学)と福田咲絵(AX cyclocross team)
福田は渡部の隙を見てペースアップし、渡部を置き去りにして単独で先行、このままの勢いでフィニッシュラインに飛び込んだ。2位とは2分以上の差を開けての先行で、前週の琵琶湖に続き、JCX戦を連覇、調子の良さを見せつけた。
福田は前週に続き独走優勝
渡辺は2位でフィニッシュ。2位の渡辺に迫ったセカンドパックからは、熾烈なスプリント合戦で中島が望月に競り勝ち、3位表彰台に滑り込んだ。
3位を競り合う中島と望月美和子(ORCA CYCLING TEAM)。大会の冠であるチームの名にかけて、中島が表彰台を死守した
この日の結果を受け、男女のトップレーサーたちはどのような調整をし、本番の全日本選手権をどう走るのか。前哨戦としても注目を集めたレースだった。
急遽、本年度の開催が決まった大会だと言うが、蓋を開けてみれば、男女エリートには上位選手が名を連ね、各カテゴリーにも元トップ選手やジャーナリストなど、多くの名の知られた参加者が参戦し、各レースを大いに盛り上げた。国内の各シクロクロスリーグからも、スタッフが駆けつけ、開催をサポートしたという。
大会の開催を支えたスタッフのみなさん
国内では非常に珍しい常設のコースであり、このコースの存在は、北陸の選手層育成にもプラスに働くかもしれない。来年の大会がさらに盛り上がることは確実だと思われるが、このコースを核とした今後の新しい展開にも、期待が集まっている。
画像提供:Yuzuru SUNADA/フカヤDeLa TRAIL presents 弱虫ペダルカップin能登(P-Navi編集部)