キッズとママのスノーライド

2021/05/17(月) 19:15

キッズとママのスノーライド

子供ができると、生活は一変する。日本では、出産後に趣味などを諦める女性も多く、特に自由でアクティブな活動に関しては、かなりハードルが高いのが現実だ。そんな現状を受け、北海道の北見市で、ママたちにスノーライドを、そして、子供たちには思いっきり雪遊びを経験してもらい、親子それぞれに心ゆくまで楽しんでもらおうという実証実験が立ち上がった。

今回参加したファミリーの中には、雪をまだまともに見たことがないというお子さんも。「雪を見られる」だけで大コーフンなのに、この日は一面の雪の中で思いっきり遊べるなんて! 移動中から子供たちの熱気は上がりっぱなし。車内の窓が曇ってしまうほどだった。
今回の企画のベースになったのは、北海道北見市の温根湯地域に除雪・整備し、ファットバイクで走行できるように設営されたルート。そこにガイドが付き、レンタルのファットバイクで参加者たちが走る「スノーバイクライド」という一般イベントだった。
北見市では、親たちと子供たちが、それぞれ満足できる形で、豊かな自然環境を活用して楽しんでもらえる基盤づくりを目指している。そこで、ママたちにイベント参加してもらいながら、子供たちにも楽しんでもらう実証実験を同時に企画していた。今回、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、イベントは中止になったのだが、今後の環境づくりのために実証実験パートは行うことになり、ママたち3名と、2歳から8歳までの5名のキッズが北見にやってきた。

双方のスタートになるのは「塩別つるつる温泉」。湯質がいいことで知られる温泉宿だ。ライドはここから「道の駅おんねゆ」に向かい、戻ってくる周回コースが設定された。
子供たちは、北見市の3名の保育士と、子供関連の課を経験し、子供たちの遊びを熟知した市役所職員の計4名が子供たちのケアを担う。かなり手厚い体制だ
女満別を出発した時には青空だったのだが、天候が変わり、スタート準備をする頃には、雪がパラついてきた。だが、まったく動じない一行たち。着替えや飲み物などを託し、ママたちはファットバイクにまたがると、さっそうとスノーバイクライドへスタート!


雪が舞う中、ライドスタート!


ママたちとの別れを惜しむでもなく、斜面で遊ぶキッズたち。開始から全力だ

子供たちはママたちを見送ることもなく、早々に雪の積もった斜面に向かい、すでに雪まみれ。ママたちも笑顔、子供たちもはちきれんばかりの笑顔。雪が舞う中、最高のスタートになった。
きっちりと除雪された路面は味気ないほど走りやすい。だが、周囲の景観はこれまでの季節と異なるもの。路面が良い分、景観を見る余裕も生まれてくる。雪の舞う道をゆったり走りながら、雪化粧した街の景観を楽しむのだった。

農道に入ると、一気に様子が変わり、一面が銀世界に変わった。両サイドに広がる畑が、真っ白で手付かずの雪原になって広がっている。パラついていた雪は、強くなったり、止んだりと目まぐるしい。農道は交通量がないため、路面の雪が溶かされておらず、道路も完全に雪で覆われている。雪が深くなった箇所などは、下に凍ったワダチの跡などが潜んでいることもあり、うっかり滑ってしまうことも。前走者の後を追いながら、走りやすそうなラインを探し走る。どこもかしこも白いので、ついつい忘れがちだが、これは公道。左側通行を守りながら行こう!と、声を掛け合いながら進んだ。


雪が積もる中をファットバイクの隊列が行く


グリーンシーズンは玉ねぎ畑などが広がるのだが、見渡す限り真っ白だ

あっという間に「道の駅おんねゆ」に到着! 平坦で乗りやすかったものの、ここまで乗れたという安心感と、達成感が漂う。ここで休憩をしよう!


「道の駅おんねゆ」に到着!

店舗の壁にデカデカと書かれていた「生牛乳飲み放題」の文字。聞けば「生牛乳」とは、加熱殺菌していない牛乳のことだという。そんなに飲めるものなのだろうか? いや、そんなに飲んで大丈夫なのだろうか? 店舗の方におそるおそる尋ねると、今は飲み放題は中止し、一杯ずつ販売しているとのこと。なんとなく、ホッとしつつ(笑)、ホットの生牛乳をオーダーした。一杯150円!


「おいしい!」味わった皆が「牛乳の甘さ」に感動した

温めてくれた牛乳を受け取ったメンバーから歓声があがる。「香り!香りがします!」。自分のカップで確かめると、確かに「牛乳の香り」がした。そうか、牛乳には香りがあったんだ。考えたこともなかった。ほどよい温度に温められた牛乳は、甘くて濃厚で、とても贅沢な味がした。

改めて店舗のメニューを見れば、特産の玉ねぎを使ったオニオンフライや、おイモは入れず、たまねぎや白花豆で作ったコロッケなど、地域色の濃いメニューが並んでいる。食べてみたくて、次々オーダー。大人買いだ。
このオーダーは、大当たりだった! サクサクの衣のオニオンフライは、玉ねぎの甘さや風味がストレートに生きていて、食感も含め非常に美味だったし、玉ねぎコロッケの甘さには驚かされた。白花豆のコロッケも、豆の旨味が存分に生かされていて、高価な皿に乗っていれば、高級料亭で出てきても納得してしまいそう。


たまねぎと白花豆で作られたコロッケ。イモ不使用の贅沢さ!

驚くべきことに、ふたつのコロッケは、ほぼ味付けなしで、素材の味そのままなのだという。素材が上質な土地は、強い。それにしても、白花豆自体、安くはない素材である。それなのにどうして220円でコロッケ2個も提供できるのだろう? 産地だからこそ作れる製品、産地だからこその値段。コスパ、最高だ!

実はこの道の駅でショッピングの実証実験も行われた。クロネコヤマトの決済システムを使用し、スマートフォンで決済し、購入品を店舗に託せば、ヤマトが集荷し、指定場所に配送してくれるというもの。サイクリングでは荷物を運びにくく、欲しいものに出合っても断念することが多いが、瓶詰めの調味料も、崩れやすいお菓子も、恐れることはない! 画期的なシステムだ。ここに便乗し、先程の店舗で3kg600円のサラダ玉ねぎを購入し、ちゃっかり同梱をお願いした。


実験した新システム。実現したら、スポーツツーリズムの救世主になるかもしれない

補給やショッピングを楽しんだあとは、帰路へ。帰路は往路とは異なり、アップダウンはあれど、景観の優れたルートをたどる。いつの間にか、あたりは青空になっており、美しい景観が望めそうだ。リフレッシュした一同は、笑顔で再スタート!


帰路へスタート!雪化粧した街の景観がなんともかわいらしい


いつもなら余裕の緩い上りだが、雪に覆われていると事情は違う

最初から少々の上り。雪に覆われた上りは、立ち漕ぎすると空滑りしてしまうことがあり、サドルに座ったままペダルに力を込めていく上り方が基本になる。長い登坂ではないから、落ち着いてこなしていこう。


美しい景観の中を走る


視界が開けてきた。雪景色した景観が美しい

ルートはごくゆるいアップダウンから、集落を見渡すパノラマを楽しめるエリアに差し掛かる。パッチワークの畑は真っ白な雪原と化しているが、谷側に広がる雪に覆われた集落ややまなみを見渡す景観は圧巻!
このルートは、ジェットコースターのようにうねるアップダウンあり、緩いつづらあり、弧を描いて下っては、また上り返す、飽きないプロフィールが続く。こんな走りごたえのある公道で、スノーライドが楽しめるとは! もちろん、サポートカーやガイドスタッフの皆さんが守ってくれるからこそなのだが、本当に貴重な機会だと、この走行の価値を噛み締めながら走った。まさに、ここでしかできない経験、ここでしかみられない絶景だ。


まっすぐにうねるジェットコースターのような道を楽しむ


白く輝く雪原の間を縫って走る


ゴールはすぐそこ。名残惜しい

10km程度のライドを楽しみ、塩別つるつる温泉にゴール。子供班は、まだまだお楽しみ中のようだ。

大人たちは、食堂で少し遅いランチをいただく。メニューは、生姜焼き、豚丼、カツカレー、鍋焼きうどん。雪の中といえど、運動量は大きく、汗だくになってしまい、熱々の料理はスルー。女性陣は野菜の豊富な生姜焼き定食をセレクトしたのだった。


野菜たっぷりの生姜焼き。特産の玉ねぎが甘さをプラス


ルーがたっぷりかかったカツカレー。カツにもルーをかけるスタイルだ

夕方になり、ようやく子供班が戻ってきた。充実しきった表情を見せ、子供たちの結束も固まっているようだ。グローブはずぶ濡れ! どんな遊びをしたのか聞いても、大人への秘密なのか、どうも子供たちの口が鈍い。でも、楽しかったことは間違いなさそうだ。
先生方曰く、自分たちでかまくらを作ったのだとか。大きな雪だるまを作ったり、ソリすべりをしたり、雪合戦をしたり! 積雪量のある地域でなければ、夢で終わる可能性も高そうな貴重な経験だ。


ソリ遊び


かまくらを作る子供たち

雪だけでなく、道の駅おんねゆで、山の水族館に行ったり、木のおもちゃで遊んだりという室内遊びも取り入れてもらえたようだ。


地域特産の木材を生かした木のおもちゃで遊ぶ


「山の水族館」へ

塩別つるつる温泉が、特別にかまくらを仕立ててくれており、夕方からはここで焼肉をするという。北見は焼肉の町であり、真冬には屋外で焼肉を楽しむ「厳寒焼肉」も人気のあるアクティビティーなのだ。


焼肉を楽しむ保育を担当したスタッフたち


かまくらの中で肉を焼くという貴重な経験

かまくらの中で炭火焼。なんと風情のあることか! 中で火を焚いても、かまくらはびくともしない。肉や海鮮、野菜を焼いて、大人たちは心ゆくまで楽しむ。一方、子供たちは、やはり雪で遊びたいらしく、食事を早々に切り上げて、斜面に集結して楽しんでいた。


雪で冷やし、デザートのアイスクリームも作成


雪を染める花火。ドラマチックな演出に、夢中になって空を見上げた

つるつる温泉プレゼンツの花火が上がり始めた。真っ白な雪で覆われた大地を、色とりどりの花火が照らしだすさまは、最高にドラマチック! 寒さも忘れて、この幻想的な光景に見入っていた。

翌日は、端野のノーザンアークリゾートへ移動し、ソリすべり大会! 子供たちはもちろん、ペアやトリプルで大人と一緒に、さらには大人6名+子供2名、ソリ3連結で繰り出すなど、大いに楽しんだ。


ソリ遊びを楽しむ子供たち


かなり大型のソリ遊び場で、速度も出るが、子供たちはへっちゃら

ソリ遊びの合間にママたちは、ノーザンアーク内の特設スノーライドコース「ヒーローズパーク」を、ササッと1周。


吹き付ける雪もモノともせず、スノーライドを楽しむママたち


陽が差してきて、周囲が輝き始めた

晴れたり、雪が吹き付けたりと、目まぐるしく変わる天候の中、走行を楽しんだ。ライドコースも、ソリ遊び場も常設であり、スノーライドと雪遊び、ソリ遊びを、大人と子供それぞれが満足できるのは、この施設の強みだ。フライトまでの長くない時間であるが、一行はここでのアクティビティーを堪能したのだった。

現在、国内のスノーライドは、スキー場のゲレンデを活用したものが多い。今回のスノーバイクライドは、一般公道を使うルートの中で開催された。まるでグリーンシーズンのように、公道をこれだけ大きく使い、この季節にしか見えない純白の絶景や地域の表情を楽しみながら走るのは、少々現実離れした貴重な経験だった。
「母親がアクティビティを楽しむ間、子供を預ける」と言えば、日本では眉を潜められてしまうが、今回は子供たちにネガティブな要素は皆無で、この土地でしかできない経験を積み、最高に楽しい時間を過ごしたようだ。「預けられた時間」というより、「与えられた時間」という感覚だったに違いない。
年齢差はあれど、すぐに打ち解け、助けあったり、役割を分担したり、年少者の世話をしたりと、巧みにグループとして機能しながら、この貴重な環境を最大限に楽しんだ。地元の方々にはごく普通の雪原でも、斜面でも、子供たちにとっては極上の遊び場だった。
別れの時間が来て、帰りの空港に神妙な顔をしていた子供たちは、なんとなく、少し成長したようにすら見えた。

今回の実証実験の価値は十分にあったろうと思うし、親と子それぞれが、その土地ならではの貴重な経験をし、それぞれのハッピーを叶えられる体験型のツーリズムは、満足度も高く、もっと、もっと増えてもいいと感じた。今回のこの成果が、今後につながっていくことを願いたい。
4月下旬ごろからオンロードのグリーンシーズンは始まり、今回の様々な結果を受け、来季の北見のスノーシーズンがどうなるか、今から楽しみに思えてしかたない。

※ガイドラインに従い、感染予防への最大限の配慮をして走行しております

流氷を眺め、雪の上で遊ぶスノーライド
(前編)
(後編)

画像:編集部、サイクルアドベンチャーオホーツク推進協議会
提供:Naoki YASUOKA(Cyclowired.jp)(P-Navi編集部)

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