2026/07/07 (火) 18:00 28
左肘の手術を2026年4月28日に行った後、5月武雄全プロ記念(F2)、そして6月岸和田高松宮記念杯(G1)を走り終えた脇本雄太の現在の状態はどうなのか。古性優作の優勝、寺崎浩平の奮闘はどう映り、また選手としてどう分析するのか。復活の道を行く中で、いろんな楽しみがこの夏、待っているという。
手術が無事、成功裏に終わったことで、まず武雄の全プロ記念に参加することができた。ただ、状態が良くないのは仕方ないところだった。「どういう状態なのか。踏みたいタイミングが来た時に体が動くか」というところから確認することが大事だった。走ってみて「第一印象で違和感があった」と振り返る。
2走の成績は振るわなかったが、その時の全力を尽くし、次につなげることが必要だった。岸和田の高松宮記念杯は準決敗退も、最終日は豪快なまくりを決め1着。「武雄を走らずに、感覚を知らないままだったらと思うと恐ろしい部分もある…」。岸和田でも、その時にできる走りで戦った。中でも、位置取りを意識した動きも多かった。
「自分の中でスタイルをだいぶ崩した感じ。最悪の展開を想定した走りをして、先につながる走りはできたと思う」
体がどれだけ治るか。また、この先にどう戦っていくか、何が必要なのかも含めての5走だった。自己診断では「いいとこ3割、4割。肘の痛みが走りに影響している。みんなの評価が高すぎる部分はあるけど、自分としても未知すぎるケガで、これからどう作用するかまだ見えていない」と話す。
今の肘の状態のまま「今年一年に関しては、ケガをする前の脚力に戻せるように」がテーマだ。
「理想で言えば、ヒジがまっすぐ伸びなくても、痛みがなくなってくれれば。完治というのはもう、ドクターからもハードルが高いと言われているので。このポイントで踏みたい、と思っても痛いポジション、痛くないポジションとかはその時のレース次第になってしまうから」
現在は、人工関節に、などといった判断は必要ないそうだが「寝る時は肘をひねらない姿勢で眠らないといけなくて、そうしたストレスもある。私生活はそんなに問題ないんですが」と抱えている問題はある。
脇本が苦闘する中、古性優作(35歳・大阪=100期)が優勝し、寺崎浩平(32歳・福井=117期)がよりたくましい姿を見せていた。寺崎の決勝の走りはどう見えたのか。
「寺崎君は、自分が後悔のないレースをして、それが結果につながっていましたね。決勝は見ていて、ちょっと前の自分に似ているなと感じました。(三谷)竜生さんが勝った時の宮杯みたいな…。自分も後悔のないレースを、と逃げて差されて、逃げて差されて、をやっていた頃に重なりました」
寺崎は決勝で落車してしまい(落滑入4着)右鎖骨を骨折。一人の先輩として、仲間として心配もあり「初めての骨折みたいで、やっぱり初めてだと分からない部分が大きい。完全復帰まで待っていいのかな、と思います」と気遣う。
寺崎がケガをした後は「ナショナルチームのドクターに相談したり、アフターケアとかのアドバイスはしました。あと、近畿のみんなで復帰しやすくなるようにと」みんなで支えていく態勢がすぐにあったという。優勝した古性だが、寺崎が落車したことで喜ぶ姿はなかった。古性の姿を見ても、感じるものがあった。
「全プロの時に予兆があったんです」
武雄で古性と話したのが「どうやったらラインで決められるか」だったという。高松宮記念杯では古性らしい縦横無尽な走りで、前の選手を援護する凄いレースがあった。あった、はず。脇本は違う感じ方をしていた。
「余裕はなさそうに見えた。元々やってなかった、車間を大きく開ける走りをしていたでしょう」
あくまで自分の想像だけど、と前置きしつつ「模索というか、進化しようとしている感じ。本来、G1の決勝ではあんなに車間を空けなくていい。リスクもあるので。寺崎君があれだけ頑張ってくれて、1着を取るだけなら簡単だけど、それは古性君が望んでいる形じゃない。G1の決勝でも、ラインで決める、ということに挑んでいた。わざわざG1の決勝でやるのか!って」と古性がより先へと進もうとしているのを感じていた。
深く、ラインで決めるために…を話していた。「自分は番手の経験は少ないけど、相手に車間を空けられて、というのは何度も経験している。車間を空けてくるのにどう対応したらすり抜けられるとか」。逆の目線から、番手の仕事のヒントを古性は脇本から得ようとしていた。かといって、「簡単じゃないですよ」。
レースは千差万別。走る9人も常に違う。「前の選手の力量や、まくってくる選手の力量も分かっていないといけない」。それを古性は完全に成し遂げられるように、と進んでいる。かつては村上義弘(引退=73期)さんがそうした走りを見せていた。
「滞空時間、っていう言葉を使うんです」
滞空時間? 脇本は「村上さんは滞空時間が長いんです。まくりの選手を外においやって止めていく。それはタテの出力があるからできること。古性君は引きつけて、で、滞空時間は短い。ブロックの動きを、滞空時間で説明するんです」と解説した。
こうした解説で競輪の動きを紐解いていける…、いけていると思う、そう思うことはできる…。
「ハハハハ! そうなんですよ。その動きを磨いたからといって、全員ができるものじゃないです。口で言うのは簡単。でも70キロ近いスピードで、高松宮記念杯でいえば(200メートルを)11秒0あたりで走っているスピード感でやるんです。人間業じゃない」
ラインで決めるために、ブロック、けん制の技術を極めようとしている。高速域の中で「古性君は肩をハメるのがうますぎる。肩1個分前に出て押してもらう形にするんですが、あの伊東のウィナーズカップ決勝みたいに」などと何度もスーパープレーを披露してきた。そうした動きでも、近畿の中で共有しているものもあるという。
けん制するタイミングが重要で「早すぎると車輪を払う感じになる。落車が起きたり、自分が失格になったりするもので、近畿の中では美徳じゃないけど、やるならちゃんとやろうというのがある」と、こだわっている。危険ではない動きで、きっちりラインで決められるように。
脇本としても高松宮記念杯で、車間をうまく切られて苦しんだレースもあった。「一次予選1走目で目の前の清水(裕友)君にやられた」。3番手を取れたものの「あの感じで車間を切られると間合いが取れない」と苦しい戦いだった。そうした戦いも踏まえつつ、共有し、さらなる高みへとみんなで目指している。
自身の戦いと向き合いつつ、6月からスタートした「競輪ワールドシリーズ2026」にも注目している。最近では、福井の後輩・市田龍生都(24歳・福井=127期)がマシュー・リチャードソンを逃げて不発に追いやった。そうした戦いを見つつ、「リチャードソンがどういう状況なのか」の情報収集もした。
「鉄とカーボンの違いを聞いてもらったんです。鉄は柔らかすぎて、スタンディングのフォームが取れていないということでした。一番固いものを使っているらしいけど、彼のパワーだと柔らかすぎる。逆に言うと、そのパワーがないと世界では戦えないということ」
リチャードソンの現状を分析し、フィードバックを自身の中でしていく。個別の事象も「裏付けになる」と話す。「ペダルが壊れる」という事実も現状を説明するカギになる。「踏み込んでペダルの軸を折った選手なんか、自分は1人しか知らない。引退した黒川茂高(引退=97期)さんです。ただ、黒川さんは体重が120キロくらいあって、その体重とパワーで折れるのは分かる」。世界で戦えるパワーの基準を、鉄とカーボンの違いを通じて見極めようとしている。
ハロン(200メートルタイムトライアル)の世界記録8秒857を誇るリチャードソンだが、身長は173cmとそこまで大きくない。その体格で、世界で戦うスピードを備えている。「日本人で言えば、そんなパワーを持っているのは新田(祐大)さんしか思いつかない。レッグプレスを700キロ以上上げられるのは新田さんだけ」。レースを見て、分析して、心は燃える。
「走ってみたい興味はありますよ。でも勝てるとは思わない」
S班という立場もあり、あっせんの状況がワールドシリーズに参加することがない。そこで楽しみにしているのが「伊東(7月10〜12日)で深谷(知広)君が走るでしょ。深谷君は静岡所属で、外国人選手は静岡、南関の選手とラインを組むことが多いんです。だから…」。ニヤリと笑うのは「深谷君が外国人選手にマークした時」が気になるからだ。
333バンクでの戦い。防府ではハリー・ラブレイセンの打鐘先行を新田が差せなかった。今回の伊東も同じ周長で「同じような仕掛けを深谷君が差せなかったら、たぶん誰も抜けない」。伊東はリチャードソンとジョセフ・トゥルーマンの参加だが、深谷とどんなレースを見せるのか、大注目なのだ。
7月は前橋の3日制G3(ナイター開催)に参加し、高知サマーナイトフェスティバル(G2)に向かう。前橋では「グランプリシリーズ以来、市田(龍生都)君と一緒の開催で、連係できるかもしれないので、楽しみなんです」と楽しみが待っている。
まだレースの甘さが指摘されており「強いレースもあるけど、力を出せてないレースもある。僕だけじゃなく、近畿のみんなでアドバイスしていければ。一緒にいる時間があれば」と成長を促していく。教えられることは、いくらでもあるのだ。
龍生都の父・市田佳寿浩(引退=76期)さんと一緒に走ってきたワッキー。佳寿浩さんがG1初優勝した前橋の寬仁親王牌の決勝の時が「21歳の時ですね」。そして「僕も今年38歳!限界ですよ!しんどいです!」と唐突に叫んだ。高松宮記念杯では「自力では上から3番目くらいかな。皿屋豊さん、新田さんとか、で。もう、いいオッサンなんです!深谷も1個下だし、郡司(浩平)だって2個下(笑)」。
年齢を重ねたことをしみじみと感じながら、大きな叱咤激励がある。
「ウチらが長生きし過ぎている状態なんです。下の子たちに危機感を持ってほしい。20代で頑張っているのって、眞杉(匠)くらいでしょう。ジジイたちに『黙って付いとけ』くらいになってほしい」
それが競輪界の発展のために必要なこと。俺を超えていけ。史上初のグランプリスラマーを凌駕する若手が現れることを、心から望んでいる。
(※文中敬称略)
脇本雄太
Yuta Wakimoto
脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪14勝、2025年2月、全日本選抜競輪で優勝し、史上初の「グランプリスラム」の偉業を達成。同年6月には高松宮記念杯競輪で完全優勝し、2026年2月には全日本選抜競輪を制して同大会連覇を達成している。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。
