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ロスの超特急・坂本勉“超抜”レーダー

【坂本勉の超抜レーダー】阿部拓真の勝負強さの正体と近い将来GI戦線を動かす“新勢力”

2025/12/02 (火) 18:00 9

“ロスの超特急”こと坂本勉氏が『究極に仕上がっている選手=超抜選手』を紹介する当コラム。坂本氏が太鼓判を押したくなる“超抜選手”をチェックして車券推理に役立てましょう!(構成・netkeirin編集部)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。11月に開催された競輪祭で、阿部拓真が優勝しました。最初はまず阿部に触れていきましょう。

勝負強さの正体は“9車で生きる脚”と“コースの見極め力”

 高校から自転車競技を始めた阿部は、法政大学に進学後もケイリン競技などで優秀な成績を残しています。日本競輪選手養成所を卒業後、順調にS級へと昇格。これまでにGIII優勝こそなかったものの、幾度となく決勝には進出していました。

 競輪祭の阿部は調子の良さも目立っており、単騎ながら2着となった準決勝のレース内容にも現れていました。GIの決勝は初めてながら、同期・吉田拓矢の後ろを回れたことも、運が味方しましたね。

阿部拓真(撮影:北山宏一)

 阿部の成績をご存じの方は、『7車よりも9車が安定した成績』ということを不思議に思われているかもしれません。自分も阿部の出場レースの解説を行ったことがありますが、その頃から、「あの子は7車よりも9車が向いている」と話してきました。それは阿部の脚質が「9車向きの持久系」だからです。

 デビュー直後の若手選手の中で7車のレースで頭角を現し、一気にS級へ特昇していく選手がいます。このような選手は「短距離系」であることが多く、持ち前のダッシュ力で一気にレースの主導権を奪っていけるので、7車に合う脚質なんです。

 持久系の選手である阿部は、勝ち味に遅くなることもありますが、レースの展開に関わらず、万能に立ち回れるのが強みです。その持ち味は7車よりも9車立で生き、実際に阿部は良い位置を取れれば、タテ脚でしっかりと伸びていました。

7車よりも9車で強みが出しやすい脚質(撮影:北山宏一)

 その武器が最大限に生かされたのが、競輪祭の決勝と言えます。決勝では吉田の捲りに乗っていく形でしたが、捲りが止められると内に潜り込みました。前のコースが開いた直線で、先に抜け出した荒井に並びかけると、ゴール前ではハンドル投げで抜きさりました。

 ああいったコースの見分けができること、ゴール前での勝負根性も阿部の武器です。今回は運の良さも含め全てが揃った結果、GI初決勝・初優勝という快挙に繋がったと思います。

競輪祭決勝ゴールシーン(撮影:北山宏一)

 阿部は北日本の選手ですから、これまで何度も会話する機会もありました。その度にしっかりと挨拶をしてくれましたし、話をしていて「真面目な子だなあ」と思わされたものです。

 競輪祭には自分の弟子であり、阿部とは同期にあたる新山響平も出場していました。新山にとっては3年間守り続けてきたS班からの陥落となりましたが、その新山に変わって、阿部がS班となったのは、自分のことのように嬉しかったはずです。

 年末にはKEIIRNグランプリを迎える阿部ですが、展開次第で一発が狙える走りができるのは、競輪祭でも証明済み。グランプリでどんな走りを見せてくれるか楽しみになります。

 そして、来年からはS班としてのレースが始まります。初めてS班に上がった選手は、そのプレッシャーに押されるがばかりに、「勝たなればいけない」、「人気に応えなければいけない」と、自分の持ち味を発揮できなくなることもあります。阿部には自分の実力を信じて、臆することなく、堂々としたレースを期待しています。

新人離れした勝負度胸とレース勘を持つ北岡マリア

 さて、今回の「超抜選手」ですが、当コラムで初のガールズ選手を取り上げてみたいと思います。そのガールズ選手とは北岡マリア(128期・石川)です。

北岡マリア(撮影:北山宏一)

 北岡は今年デビューながらも、中学の頃はトライアスロン競技を行い、高校に入ってからは高校総体の500mタイムトライアルで優勝、全日本選手権のスプリントとケイリンでも優勝など、短距離系の競技を総ナメする活躍を見せてきました。

 選手としての素地が伴っているのは、誰もが認めるところですが、驚かされたのがそのレース内容です。5月にデビューしたばかりの北岡ですが、先輩云々関係なく、自分から有利な位置へと動いていく姿に驚かされています。

 タテ脚のある選手の後ろを取ったかと思えば、その位置が欲しい位置なら後ろにいる選手との並走も辞さないこともあります。同期選手たちを相手にした5月の四日市競輪場の大会で完全優勝を果たしただけでなく、どの大会でも確実に決勝へ進んでくるのは、こうしたアグレッシブさに要因があるでしょう。

女子ルーキーシリーズプラスでは直線鋭く伸びて2着(写真提供:チャリ・ロト)

 11月の松阪競輪でも北岡は完全優勝を果たしています。ガールズGIに出ているような強いメンバーは、競輪祭女子王座戦に参戦していましたが、決勝には特別競輪を沸かせていた梶田舞や、北岡と同じ128期の北津留千羽も名を連ねました。

 予選ではバックを取っていた北岡ですが、この決勝では先行意欲の強い西脇美唯奈を見る形で3番手からレースを進めていきます。残り1周で後方にいた北津留がカマシていくも、北岡は前にいた梶田を抑え込みながら西脇の番手を守り続けただけでなく、その西脇の捲りに乗っていきます。

 そして、ゴール前ではまるで図ったかのように、西脇を差し切ってみせました。ケイリン競技で活躍してきた北岡ですが、その見事なレース運びは、もう、何年もガールズケイリンで戦ってきたかのようでした。ちょうど、自分は松阪の解説をしていたこともあり、レース後の北岡と話す機会もありました。コメントも堂々としており、負けん気の強さも感じました。

堂々とした受け答え(撮影:北山宏一)

 ガールズケイリンは選手層が年々厚くなっています。新人選手たちはタテ脚がないと先輩の後塵を拝するだけでなく、タテ脚があったとしても仕掛けどころのタイミングが掴み切れないばかりに、勝ち切れないレースも多くなります。

 北岡はタテ脚がありながらも、その脚をどう生かしていくかのレースプランを立てられる選手です。それが道中での位置取りの良さにも現れています。今後のトレーニングでさらにタテ脚に磨きがかかれば、ガールズケイリンを代表する万能選手になっていきそうです。

 その後、北岡は玉野競輪でも完全優勝を達成。GIに出場していた大久保花梨や元砂七夕美を相手しながらの勝利は、本人にも自信になったはず。数年後どころか、来年には「競輪祭女子王座戦」といったGIへの出場どころか、「ガールズグランプリ」にも名を連ねていても不思議ではありません。

北岡マリア出走情報

開催場開催名シリーズ日程
前橋ウィンチケットミッドナイト競輪(FII)12月18日〜20日
岐阜Kドリームス杯(FII)12月27日〜29日

※上記出走情報はコラム公開日時点(2025年12月2日)のものです。
※アプリをインストールの上、データベース内の選手ページにてお気に入り登録(☆をタップ)しておくと出走確定情報が通知されるので便利です

関東を代表する先行選手に名を連ねる可能性が高い福田稔希

 続いてS級の「超抜選手」には、福田稔希(栃木・125期)を取り上げます。

福田稔希(写真提供:チャリ・ロト)

 福田のいる栃木地区はS班の眞杉匠、愛知から移籍してきた杉浦侑吾といった、競輪界を代表する先行選手がいるだけでなく、関東という括りでは今年の「日本選手権競輪」を勝った吉田拓矢の名前もあります。

 こうした関東を代表する先行選手に、そう遠くない時期に名を連ねると思うのが福田です。今年8月末にS級への特昇を果たした福田ですが、S級に上がってからも、どんな相手でもレースの主導権を取っていく強い意志が現れています。

 福田のスピードならば先行をしなくとも、一気のダッシュで捲りでも勝てるはずです。ただ、「ラインも連れて勝つ」の思いも強いのか、他の先行選手との踏み合いになっても一歩も引きません。初めてのグレードレース参戦となった「長良川鵜飼カップ」や、その後の「ゴールドカップレース」でも、自分より名のある先行選手を相手に見事な走りを見せていました。

 このような積極的なレースを続けていくと、そのうちどんどん力がついていくだけでなく、他の先行選手からも「福田と一緒のレースは嫌だな」と思わせる存在になっていきます。これも眞杉や吉田といった先輩の走りを間近に見ているからなのでしょう。また、福田にとっては、杉浦の移籍も刺激になったと思います。

2024年レインボーカップチャレンジファイナルを制した(写真提供:チャリ・ロト)

 最初に阿部の話もしましたが、福田もまた7車よりも9車の方が成績のいい選手です。それは福田がしっかりとレースの主導権を握ってくれるだけに、(レースの主催者も)番組が組みやすくなり、後ろの選手も番手の仕事をしてくれるからです。

 現在の競輪界は125期の選手たちが目覚ましい活躍を見せています。今年の「ヤンググランプリ」には123期と125期の選手が選出されていますが、その中には阿部英斗、栗山和樹、中石湊、森田一郎の名前もあります。

 ひょっとしたら123期の先輩たちを差し置いて、125期の選手たちの中からヤンググランプリ覇者が出てくるのではとの期待も持たせてくれます。福田も来年まで参加資格があるだけに、来年の「ヤンググランプリ」に名を連ねるような活躍を期待しています。

関東を代表する先行選手に(写真提供:チャリ・ロト)

福田稔希出走情報

開催場開催名シリーズ日程
伊東椿賞争奪戦(GIII)12月11日〜14日
四日市萬古焼協賛 中日スポーツ賞(FI)12月22日〜24日

※上記出走情報はコラム公開日時点(2025年12月2日)のものです。
※アプリをインストールの上、データベース内の選手ページにてお気に入り登録(☆をタップ)しておくと出走確定情報が通知されるので便利です

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ロスの超特急・坂本勉“超抜”レーダー

坂本勉

Tsutomu Sakamoto

●坂本勉(さかもと・つとむ) 1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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