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前田睦生の感情移入

【KEIRINグランプリシリーズ2020】平原は、平原だった

2020/12/31 (木) 12:00 11

KEIRINグランプリ2020 最終4角

 12月30日、11R「KEIRINグランプリ2020」の最終4角で時間が止まっている。平原康多(87期=埼玉・38歳)が清水裕友(105期=山口・26歳)をブロックしたところだ。平原はヨコに動いた。

平原はヨコに動いた

 地区の違う脇本雄太(94期=福井・31歳)と連係した平原にとって、勝つことだけが、このレースの意味だと感じていた。これまでとは違う決断をした以上、と思ったが、平原は平原だった。ラインを組んだことで、お互いの仕事を全うしなければならない。前を走る選手は自力でレースを作り、後ろを回る選手はそれを援護し、そこから勝機を伺う。

 11月競輪祭で落車、負傷後の脇本だったが、打鐘前の2角から敢然と仕掛けた。長い距離を攻め、レースを支配した。風も強い中だった。平原は風を切り続ける脇本の背中を見て何を感じた、か。それがすべて最終4角に現れている。

 松浦悠士(98期=広島・30歳)が仕掛け、不発にはなったが、松浦をマークしていた清水にとってはチャンスが生まれた。2センターから踏み込むと「獲った、と思った」(清水)ほどの手応えがあった。そこに平原が体当たり…。脇本を守った。

清水の表情に悔しさがにじむ

 平原がただ勝ちを目指すならば、清水に激しく当たらずに、車体を振りつつ前に踏むところ。しかし、ラインを組んだ脇本の頑張りに対し、平原の心は、体はそれを許さなかった。脇本もゴールまで勝負できる形に持ち込もうとした。

 清水のスピードが良かったので、平原は止めるために大きな動きとなり、ポッカリと和田健太郎(87期=千葉・39歳)のVロードができた。脇本は逃げ粘るも、2着。今年も逃げ切りでのグランプリ制覇はできなかった。

誰かが誰かのために戦っている

 ライン。先頭を走って苦しい向かい風と戦う選手の頑張りに、後ろでラインを作る選手は応えないといけない。それが、信頼関係になる。ひいては、競輪選手としての評価にもつながる。平原はラインのために、の思いを常に持ち続けて走ってきたからこそ、体はヨコに動いた。

 ああ、グランプリでもそうなのか…。脇本は脇本で、何かを変えることもなく、負傷明けの体でも、楽ではない戦法で平原と2人でチャンスのある走りをした。平原は脇本の走りに応えた。競輪を見るということは、こういうことなんだ。脇本と平原の生き様、4角で2人の間にできた密接な空間が、色のない静止画として残る。開いているが、そこに距離はない。

前人未到の3連覇

 ガールズグランプリ2020では児玉碧衣(106期=福岡・25歳)が男子でも達成されていない、グランプリ3連覇を成し遂げた。この記録の偉大さはもっと後になって感じるのだろう。児玉の笑顔からは、そのすごさは感じられない。感じさせない、すごさがある。ただ「来年の目標は来年決めたい」と語ったことで、児玉が背負っていた、大きなものがあったと推察された。

ガールズケイリンを背負う25歳の女の子

 ヤンググランプリ2020は松井宏佑(113期=神奈川・28歳)の優勝だった。おとぼけキャラでもあるが、昨年9月に母を亡くし、11月にはワールドカップで銅メダル獲得(ケイリン)。その勢いで、母のためにの思いで走った年末は結果を残せず、今年こそだった。北海道で住職を務める父への優勝報告の時は、涙ばかりだったか。

 人間そのものの露呈が競輪の神髄。むき出しの競輪を感じさせてくれた平塚グランプリシリーズだった。

届け、この思い

 KEIRINグランプリ2020の覇者となった和田は「両親、家族に伝えたい」と話した。2017年2月GI全日本選抜の直前に父が倒れた。「練習しては病院に、練習しては病院に」。直前は満足な準備ができなかったものの、まさかのGI決勝初進出を決めた。「こんなことがあるのか…」

 父は今、自由な体ではないそうで「この優勝もわかってくれているか…。でも母が紙面を見せたりしてくれるでしょうし」。コロナ禍にあって容易に会いに行くこともままならない今。しかし、父の胸には息子の快挙が、喝采が届いているだろう。

思いは父のもとへ


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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