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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士の心理】オールスター準決勝の失敗が松戸記念の優勝に繋がっている

2021/08/31 (火) 18:00 12

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は『オールスター競輪(GI)』と『燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII)』を振り返っていきたいと思います。また、今月も読者の方から寄せられた質問にも答えていきたいと思います!

オールスターファン投票2位の松浦選手(撮影:島尻譲)

負けから学ぶ、もっと切羽詰まらないといけなかった

 最初にオールスターを振り返ります。ファン投票2位で選んでいただき出場することができましたが、ファンのみなさんの期待に応えるような走りを見せることができませんでした…。シリーズを通して体の調子は悪くなかったのですが、僕自身の意識というか、レースを組み立てる上で『勝てる時の考え方』が足りませんでした。

 例えば、準決勝のレース。深谷さんの仕上がりがすごく良くて脅威に感じていましたが、僕はどんなに厳しいレースでも、常に『自分にできることはある』と考えて走っています。この時も、しっかりと戦略のパターンを用意しつつ臨んでいますし、勝てる展開を模索していました。結果、深谷さんにやられてしまい、レース後に思ったことは『もっと切羽詰まらないといけなかった』ということです。

 レース後に敗因を分析していたんですが、今回のオールスターの準決勝と5月の京王閣ダービーの準決勝を比較してみると、自分の考え方に差がありました。ダービーの準決勝では「優勝が目標なんて言わない方が良かったかも…」とかなり切羽詰まっており、このコラムでも書いたんですけど、『レース前の緊張感はシリーズで1番』でした。「自分が踏み込んでいかないと決勝はないぞ!」と背水の陣で走っていたんですよね。

 でも今回は戦略を練る段階で、別線の動き方を想像することが多かったです。端的に言うと「あの選手がこう動いたら自分はこう動こう」の考え方が占めている感じで…。もちろん別線の動きを想定しないことには戦略は立てられないので、詰めて考える必要性はあります。でも「あの選手がどうするか?」を考えの中心にしてしまうと『勝てる時の考え方』ではなく『負ける時の考え方』になってしまいます…。

 この準決勝の負けからは学ぶことがありましたし、自分の考えと向き合う良い機会になりました。後ほど書きますが、この経験が松戸記念での優勝に繋がる要因のひとつになったんですよね。

 オールスター全体を振り返ってみると、太我とワンツーができたり、最終日もレースの流れの中でしっかりとした状況判断ができ、香川さんと決めることができたり、もちろん良い面もあります。何よりファンのみなさんに選んでもらって走れたオールスター。改めまして、応援、投票ありがとうございました!

最終日は貫禄のワンツーで魅せた(撮影:島尻譲)

思わず出たガッツポーズ

 続いて松戸記念のことを書きたいと思います。オールスターの反省があったため、『自分の納得の行くレースをする』とシリーズに入っていきました。その気持ちが3日目の準決勝で結実したように思います。

 準決勝の番組が出た時に「厳しいメンバーだな…」と勝ち上がりに不安を覚えました。でもその不安を大きく上回るように「飛んでしまうとしても自分のレースをしよう」って気持ちがあったんです。初日と2日目では自分が思うような上りタイムが出ていなかったので3日目は自分の走りも改善しなくてはと思っていましたし、もっとスピードを出さないと! と考えていました。

 スピードが出ているときは『自転車が内側に倒れる(寝てる)』という感覚になります。言い換えると『自転車が倒れていない=スピードが出ていない』ということ。準決勝では自転車がしっかり倒れるぐらいスピードを出したいと考えて臨みました。

 いざレースが動くと野口さんと黒沢君がやり合う形となり、結果的に僕たちのラインに展開が向いたと思います。仕掛けどころも逃さず踏み込めましたし、スピードに乗った自転車もしっかり内側に倒れました。そして何より嬉しいのはラインのワンツースリーです。岩津さん、僕と同期の藤岡さんと勝ち上がりを決めることができて、本当に良かった!

 厳しいメンバーに勝てた喜び、自分の納得の行く走り、ライン全員で勝ち上がり、ゴール後には思わずガッツポーズをしてしまいました(笑) 。

準決勝が終わり同期の藤岡隆治選手(右)と喜び合う松浦選手(撮影:島尻譲)

岩津さんの前で良い走りを見せたい

 決勝戦も厳しいメンバーであることは変わりませんでしたし、仕上がりの良さが目立つ選手もいました。ただ、3日目の走りに納得していたので、「ここでも自分のレースをするだけだ」と気持ちを入れました。また、個人的な目標ではあるんですが、岩津さんの前で岩津さんに良い走りを見てもらって、できれば「逃げ」の決まり手をつけたい! と考えていました。

 岩津さんは公私ともにお世話になっている先輩で、僕が調子を落としかけていた6月の別府記念で「良いところがなくなってきよる」と声をかけてもらったんです。そのほかにも意識の持ち方や考え方について話し込むこともあり、信頼を寄せている先輩です。そんな岩津さんと同期の藤岡さんと連係するわけですから、『ラインで決められる仕掛けどころを逃さず行きたい』という想いにも引き締まるものがありました。

瀬戸内ラインの先頭で迫力の逃げを披露した(撮影:島尻譲)

『ラインで決められるタイミングで行って抜かれてしまうなら僕自身の脚力がないだけ』という僕自身のテーマもありますから、決勝では思い切り行きました。ただ、気持ちのせいかタイミングが早くなってしまい「ちょっと早かったかも!」という焦りはありました(笑)。でも準決勝での良さが決勝でも続いていて、力を入れる所にはちゃんと力が入っていて、力を入れるべきではない所はしっかりと抜けている状態でしたから、自転車を進ませる上でロスがなく、しっかりとスピードを出していくことができました。

 準決勝に続きラインで決めることができ、自分の個人目標も達成し、理想的な優勝となりましたし、気持ちが晴れる開催になりました!

優勝を決め、高々と拳を掲げた(撮影:島尻譲)

向日町記念へ

 次は向日町記念で走ります。向日町では脇本さんとの対戦があります。オールスター決勝の脇本さんの走りは凄かったですし、次は何を感じさせてくれるのだろうかと楽しみにしています! 自分ができることをやって戦ってきますので、みなさん応援よろしくお願いいたします!

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は4問の質問に答えていきます。

今回は4問の読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーーコロナ禍での競輪開催でさまざまな変化があると思います。どのような影響を受けていますか? それとも影響はない?

 影響はあります。一番に思い浮かぶのはレースの基本形態が変化したことですね。7車立てと9車立ては別種目というか、走り方が全然違うので、全体的に選手の走り方が変わってきていると感じています。

 与えられた環境で結果を出さないといけないのがプロだと思うので、環境の変化に対応できるように試行錯誤しています。脚力がある選手をラインの力で倒せるのは7車より9車の方にチャンスがあると思いますが、裏を返すと7車立てを走ってみて改めて「脚力をつけないといけない」と痛感することもありました。なのでプラスともマイナスとも言えませんが、大きな変化は感じています。

ーー宿舎で仲良く話す選手は誰ですか? 他地区や他県の選手とも自転車のことを話したりしますか?

 裕友と仲良く喋ります(笑)。他地区他県の選手とも全然会話しますし、自転車のセッティングや意識の持ち方など意見交換することもあります。それこそコロナ禍では分宿になることも多いので、思うように話せないことも増えましたね。あと、宿舎ではないですが、レース後に対戦相手とレースを振り返ることもよくあります。

ーー競輪に限らずスポーツ選手は「ファンの応援が力になる」と言いますが、どんな感覚なんでしょう?

 僕の場合は「一緒に戦っている感覚」になります。今の情勢的に有観客開催と無観客開催がありますから、『応援の力』に関しては比較しやすいですね。与えられた環境でベストを尽くさないといけないので、無観客の時の感覚にも今は慣れてきました…。でも函館の記念開催やサマーナイトはお客さんの前で走ることができて、「一緒に戦っている感覚」が呼び起されました。お客さんがレースを走るわけではないので、「一緒に戦う」っていうのは違うかもしれませんが、一番自分の感覚に近い表現です。

ーー競輪選手に一番必要な資質とか才能って何だと思いますか?

 この質問難しいなあ…(笑)。完全に文字を打つ手が止まり、考え込みました(笑)。整ったので書いていきます!

 僕が思う競輪選手に一番必要な資質・才能は『色々なことに気がつく能力』です。どんなに肉体的に優れていても努力を継続するためには気づきが必要になってきますし、競輪で勝つために何が必要なのかを見つけていかなくては厳しいと思います。

 競輪の話ではないんですが、僕の場合『困っている人に気づく、何を困っているのか気づく』というのを大切にしています。例えば誰かと食事をしている時に相手がキョロキョロしていたら「調味料を探しているのかな? 口を拭くティッシュを探しているのかな?」と考えを巡らせます。一見すると競輪には関係ないと思われるかもしれませんが、困っている人の困っている事に注意を払う習慣はかなり重要なんです(笑)。

 レースに置き換えると「相手がやられたら困ることを“敢えて”やる」「相手がこうして欲しいと考えていることを“敢えて”やらない」という風になるんです。相手が求めていることをわかるようになると心理戦に強くなります。また、競輪にはラインがあるので、組む仲間がして欲しいこと・して欲しくないことを理解する力もつきます。周囲の評価や信頼関係にも影響しますし、『困っている人に気がつく』という意識は強さに直結します。

 もちろん気づいた後には、気づいたことを活かせるように、どうすれば良いのか考える『思考力』も必要だと思いますし、実践するための『行動力』だって必要だと思います。でも、最初に必要なのは気がつくこと。競輪はその他にもバンクコンディションや天候、トレーニング、様々な要素が勝敗を分けます。絶え間なく“色々なこと”に気がついていかないと勝てないんですよね…!

みなさんの質問を大募集しています!

 それでは今月のコラムはこのあたりで筆を置きたいと思います! 引き続き質問を募集しておりますので、お気軽にどうぞ!

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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