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【競輪祭】吉田拓矢 愚直に競輪と向き合う“関東の星” S級S班の重責と闘った1年を語る

アプリ限定 2022/11/20 (日) 18:00 50

昨年の競輪祭で初タイトルを獲得した吉田拓矢選手。今年は記念競輪で3勝を挙げる活躍を見せながらも、ビッグレースでは本来の力を発揮できず悩み苦しむ姿がありました。走り続ける中で感じたS級S班の現実と未来への希望、そして目前に迫った競輪祭に対して吉田選手が本心を語ってくれました。(取材日:10月26日)

(取材・文=アオケイ・八角あすか)

昨年の競輪祭で初タイトルを獲得。関東の星としてファンの注目度も高い(撮影:島尻譲)

常に結果が求められる中で悩みながら走り続けた1年

ーー昨年の競輪祭優勝から今年ここまでのレースを振り返り、自己評価をお聞かせください。

吉田 苦しさや、もどかしさを感じながら走ることのほうが多かったですね。なかなか思うようにいきませんでしたが、自分的には悪くない1年だったと思います。

ーーどういった苦悩があったのでしょうか?

吉田 「やりたいレースをして勝ちたい」気持ちと「SSだから勝たないといけない」というジレンマがあり、なかなか思うように走れなかったことが一番苦しかったことですね。

ーー吉田選手の“やりたいレース”とは?

吉田 力で勝つレース。バックを取って先行するにしろ、早めのカマシや捲りにしろ、自分の力を出し切って気持ちよく勝つ。常に積極的に動いていく走りですね。

 だけど、SSになったからには勝たなくちゃいけないレースもあるし…。後手を踏んだり踏み遅れたり、展開を待ってからの仕掛けなど、勝ちはしたけど内容的には「ちょっと、うーん…」という感じで終わることも多かったです。勝利インタビューで喜びをあらわにすることが少ないと言われるのは、そういった部分があるからですね。自分の理想の走りではなかったけど1着で「どうなの」って感じ。

今年は立川、宇都宮、青森と3つの記念制覇を飾った(撮影:島尻譲)

ーー吉田選手の武器は何でしょう?

吉田 泥臭く走るところが僕の中では武器だと思っていて、基本的には積極的に攻めるレースを心がけています。先行した方が堅いレースもあるので、自分が堅いと思ったときやチャンスがあるときに先行してイメージをつけるのは大事だと思う。後手を踏んだり、消極的な走りにならないように気をつけながら、体が反応したときにちゃんと動けるよう意識をしています。

ーー先行力に加えて立ち回りの巧さ、判断力も光るものがありますよね。

吉田 平原(康多)さんほどではないので、あそこまでレースを見えるようになりたいですよね。作戦は基本的には初手の位置を決めたら、あとは感性でという感じです。

ーーここまで73走をして、自分の持ち味を出せたレースはありますか?

吉田 一番嬉しかったのはダービーの2日目特選で平原さんとワンツーが決まったのが僕の中では文句なしに嬉しかったし、よかった。今後もああいうレースができればいいなと思います。

日本選手権競輪の2日目特選は吉田(7番・橙)にとって理想のレースとなった(撮影:島尻譲)

平原さんからの「拓矢らしいレースを」の一言で吹っ切れた

ーー普段からオッズを見て緊張するタイプですか?

吉田 めちゃくちゃ緊張しいです。落ち着かせようにも、どうにもならないので…。「とりあえず走るしかない」って思っています(笑)。平原さんはいつも落ち着いていて凄いなと。レース前も穏やかな感じ。張り詰めてはいるんでしょうけど、落ち着いている雰囲気。負けたら自分が弱いだけ、と自分の中で割り切ってやっているから落ち着いていられるのかなと思う。勝たなきゃ、勝たなきゃというよりはそういう風に走っていると言っていました。

ーー赤いレーサーパンツの重みやプレッシャーはありましたか?

吉田 オッズを見ても基本的にSSの選手から売れるし、SSとして関東を引っ張っていかないといけない自負もあって下手なレースはできないし、でも勝たなくちゃいけない…。そういった葛藤があり、大変だったといえば大変だった。でも、精神的に強くなれたし、成長できたと思います。

S級S班の重責を背負い走り続ける(撮影:島尻譲)

ーー周りからの見方や変化を感じることは?

吉田 ありますね。色んな選手から見られる立場になって立ち振る舞いにしてもより一層、気をつけるようになりました。注目されるのはキツイ面もあり、嬉しい面でもあるんですけどね。

ーー実際にSSになってみて考え方やイメージの変化はありましたか?

吉田 SSになって思ったのは「ずっとSSでいる人たちは凄いな」と。ずっとこんな心境で走っているんだと思って、精神的に相当キツイなとは思いました。平原さんもそうだし、清水(裕友)さんや松浦(悠士)さんたちって凄いですよね。

S級S班20代コンビの吉田と清水(撮影:島尻譲)

ーーグレードレース中心の戦いになり、コンディションを維持する苦労はありましたか?

吉田 気が付かないうちに疲労が溜まっていたりしますね。レースは基本的に4日制で4走、相手も強く常に気が張っている状態で走るので…。やっぱりグレードレースになると雰囲気も違うし、心の疲れや肉体的な疲れは凄くあるのかなと思います。記念は決勝に乗れているので問題なく走れていたと思う。GII、GIになると準決勝が壁になっていますね。

ーー吉田選手がSSとなり、関東の若手選手の士気が一段と高まったように感じます。

吉田 僕は自分のことで一杯一杯だった。後輩たちは強いですし、まだまだ強くなると思います。

ーー行動を共にすることが多かった平原康多選手や宿口陽一選手から学んだことはありますか?

吉田 4月の川崎記念ごろに平原さんからは「“これが吉田拓矢だ”というようなレースをもっとしていった方がいい」と。陽一さんともそういう話を。前半は縮こまったレースばかりしていたので、そういう言葉をもらって吹っ切れたというか一つのキッカケにはなったのかなと思います。

ーー73走をして番手戦が10回。ラインの先頭で走る場合と番手を走って感じる違いは?

吉田 番手の方が緊張しますね。やっぱり位置を守らないといけないし、前を走ってくれる選手のためにもできること、やることが一杯あるので。最近は落ち着いて走れるようになったけど、久しぶりに番手戦になると怖いですね。

ーー番手の経験から学んだこと、得たものは?

吉田 結構あります。ダッシュタイプや地脚タイプ、タイプが異なる選手の後ろに付いて、それぞれの踏むタイミングやスピードの上がり方など、勉強になることが多いです。

ーーマークした選手の中で印象に残っている選手は?

吉田 やっぱり一番凄いなと感じたのは眞杉君。彼は基本的にシッティングで踏むことが多くて、踏み上がりが凄い。かつ綺麗に上がっていくので、後ろは付いていきやすい。あとは作戦から力強いんです(笑)。「前を取ったら突っ張ります!」と言うので、勢いに圧倒されるというかドキドキしちゃいますね。頼もしいかぎりです。年齢は3つ下だけど、自分が同じ24歳の時と比べると本当に凄いですよ。眞杉君との連係はかなり相性がいい? いつも眞杉君が頑張ってくれるおかげです。

抜群の相性を誇る眞杉匠(右)と(撮影:島尻譲)

戦法に固執し過ぎず、何でも出来る万能選手を目指したい

ーーラインを組む関東地区の選手たちについてどうのように見られていますか?

吉田 関東は地区的に大きく、いい選手が多くて頼もしい。若手選手の台頭などで勢力図は変わるけど、他地区と比べても関東は僕の中では常に負けていないと思っている。

ーー関東の総大将的な選手はどなたでしょう?

吉田 総大将は平原さんですね。あとはカミタク(神山拓弥)さん。若手にはアドバイスをくれるし、先輩にも物怖じせずに意見できる人。関東って遠慮がちな選手が多くて、他地区に比べるとガツガツという感じではない。カミタクさんがいると雰囲気がよくなりますね。カミタクさんとは僕も弟の有希とも相性がいいですね。

ーー弟さんたちと普段から練習は一緒にやっているんですか?

吉田 昌司は埼玉でやっていて、有希は基本的にはずっと一緒にやっています。有希も強いし、まだまだこれからの選手。兄弟連係はしてみたいけど、なかなか叶わないので頑張りたいです。

ーー尊敬している選手はいますか?

吉田 やっぱり一番は同県の武田豊樹さん。

ーー武田豊樹選手のどういったところが凄いと感じますか?

吉田 一番感じるのは練習に対する姿勢です。常にレースのことを考えて、どの練習にも真剣に取り組んでいる。その姿を見て僕もそういう風になりたいと思い、意識を持って練習をするようになりました。

ーーでは、ライバル視している選手は?

吉田 新山響平さん。競輪学校からずっと一緒ですし、いいときも良くないときも含めてお互いのことを知っている。先日、ナショナルチーム引退を本人から聞きました。今後は競輪一本ということで新山さんは凄く研究熱心だし、ますます強くなると思います。

ーー理想の選手像はありますか?

吉田 平原さんのように何でもやれる万能な選手。先行も捲りも番手でも、平原さんみたいになりたいと思いますね。戦法に固執することも大事だと思うけど、固執しすぎても戦法の幅は狭まってしまうので。他地区では松浦さんや郡司さんだったり、柔軟に走れる人はやっぱり強い。そういった選手との対戦は、どういう動きをするか読めないので、やりづらさがあります。

吉田が理想の選手像と挙げる平原康多(左)(撮影:島尻譲)

ーー現在の課題と取り組んでいる練習は?

吉田 僕はキレがあるような選手ではない。トップスピードに上がるまでに時間がかかるし、先行態勢に入るときに踏み上げていくのに時間がかかる。スピードを出すキレ、どれだけ速く踏み上げていけるかといった点を強化していきたいと思っています。

ーー自分にないものを持っていると感じる選手は?

吉田 郡司(浩平)さんです。郡司さんみたいなキレがほしい。先行も捲りも何でもできる選手。詰まったら行くし、先行もできるし、ああいうキレは見ていて凄いなと。神奈川の選手たちに聞いてみても、郡司さんは積み重ねであそこまで強くなったと聞くので、やっぱり積み重ねって大事なんだなと思います。

ーーちなみに、他地区で脅威に感じている地区は?

吉田 中四国は若手の台頭が著しいし、北日本だと中野慎詞君が強いですよね。礼儀正しくて凄くいい子。客観的に見ていても中四国は若手選手の雰囲気がいいです。

息抜きは家族との時間と慎太郎さんに薦められた麻雀

ーー原動力やモチベーションは何ですか?

吉田 子どもや奥さん、家族のために頑張っています。やっぱり情けない姿は見せたくないので。2歳の子どもがいるんですが、凄くワガママで…(笑)。遺伝子検査をしたら、僕と息子の性格、気質が全く一緒で「同じだと思ってください」と言われた。僕自身も自分の性格は相当ワガママだと思いますし、子どものワガママは完全に僕の遺伝ですね(苦笑)。

吉田 子どもは僕が練習から帰ると玄関まで出迎えてくれる。一緒に遊ぶ時間が息抜きになっていますね。レースに行くときはよく泣いているので、僕が選手だということは何となく分かっているんだと思う。多分、家族はレースを見ているとは思うんですけど、僕の前では何も言わないですね。

ーー他にオフの過ごし方や趣味はありますか?

吉田 実は最近、麻雀が好きで…。きっかけは佐藤慎太郎さん(笑)。「麻雀は競輪に通ずる」と言われて、なるほどと思ってやってみたら「すっげー面白いな!」と。家に自動雀卓があるので、たまに仲間内でやって息抜きになっています。

ーー麻雀ですか! 意外な趣味ですね。

吉田 始めたのはSSになってからで、今年の半ばぐらい。最近はMリーグ(M.LEAGUE=麻雀プロリーグ戦)が始まり、月・火・木・金にやっているので欠かさず見ています。

ーー佐藤慎太郎選手は自身のnetkeirinのコラムで滝沢和典プロと対談していますよね。

吉田 慎太郎さんからは麻雀の話をよく聞きますね。相手の考えを読んだり、麻雀は凄くためになる。まだまだ下手なので勉強中ですが、すっげー頭を使うんです。競輪に通じているのかなと思って楽しんで麻雀をやっています。

ーー今後、吉田選手もMリーガーとの対談企画があるかも?!

吉田 どうですかね(笑)。麻雀競輪部ってありますよね? 確か脇本(雄太)さんのスポンサーになっていますよね。赤坂ドリブンズの鈴木たろうさんが茨城出身みたいで応援しているんです。脇本さんとも検車場でたまに麻雀の話をしますね。「雀卓、買ったんですよ〜」って話をしたら、脇本さんが「俺もすぐ買うわ」って(笑)。

 この記事内で僕の麻雀好きを推してください(笑)。Mリーガーと話してみたいです、僕も。Mリーグを見ていてもMリーガーは格好いい。Mリーガーにも競輪ファンが多いので嬉しいですよ。

オフの話題になると素顔の吉田拓矢をのぞかせた

ーー競輪選手の麻雀対決が見たいですね、競輪界麻雀SS決定戦でも(笑)。

吉田 以前に慎太郎さんから「やろうよ!」と言われたときは、まだ自分はド素人だったので。競輪界、うまい選手が結構多いみたいですよ。

ーーいつかの対決企画に向けて、麻雀の腕も磨かないといけませんね。

吉田 そうですね、それに乗じて競輪も強くなると思う。競輪と麻雀は通じているので! 慎太郞さんからの受け売りですけどね(笑)。

グランプリというご褒美が先にあると信じて競輪祭は優勝を目指したい

ーー吉田選手が競輪選手になったキッカケは?

吉田 水泳をやっていたんです。やりきったというよりは楽しくなくなってしまって…。でも、辞め方が分からなくて(苦笑)。辞める理由を探していたら、競輪をやってみようかなと。選手だった父からの勧めではなく、競輪選手を目指していた友達の影響ですね。

ーー競輪選手になっていなかったら、どんな職業についていたと思いますか?

吉田 あー…どうなんですかね(笑)。多分、ろくなことをやっていなかったんじゃないかな。昔は消防士に憧れていた時期はありましたけど。

ーー選手になってよかったと思う瞬間は?

吉田 やっぱり勝ったときですね。緊張がスーッと抜けていく感じはなかなかないものだと思います。

ーー選手になって一番嬉しかった勝利は?

吉田 競輪祭ですかね。まさか自分がタイトルを獲れるとは思っていなかった。まさかの気持ちが大きかったし、優勝したときは実感がすぐには湧いてこなかった。とりあえずガッツポーズはしたけど「やっちまった」感がありました(笑)。決勝は優勝を意識しすぎず、あまり深く考えずに走ったのを覚えています。

冷静な立ち回りで初タイトル制覇を飾った昨年の競輪祭(撮影:島尻譲)

ーーその連覇がかかる競輪祭が近づいています。最後に意気込みとファンの皆さんへメッセージをお願いします。

吉田 今年最後のGIになってしまったので、もちろん優勝だけを目指して頑張りたいですね。その先にグランプリというご褒美があると信じて戦っていきたい。「なるようになれ」みたいな感じで、あまり気負いすぎずに走りたいです。松阪記念の落車後に体をもう一度見つめ直して、そこから体と自転車に一体感が出てきて凄くいい状態になってきています。ここからもう一段階上げていけるように調整ができれば。

 ファンの皆さま、いつも応援していただきありがとうございます。一戦一戦、一生懸命頑張りますので応援よろしくお願いします!

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