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猪突猛進

【清水裕友コラム】「ひろと君江」から16年 憧れの競輪選手と走った“夢のダービー” #8 猪突猛進

2022/05/27 (金) 18:00 14

体調不良からの復帰戦となったGI日本選手権競輪(以下ダービー)。4日目に行われた優秀競走の“ゴールデンレーサー賞”で、かつて憧れの選手だった佐藤慎太郎と連係を果たすと、準決勝を2着で勝ち上がりファイナル進出。いろいろな意味でも思い出に残る大会となった。その後の函館記念でも優出、一時期の不調からは完全に脱却したようだ。今回は誰もが知りたいゴールデンレーサー賞の舞台裏を中心にお届けします。最後は恒例のお便りコーナーもあります。

いろいろな意味でも思い出に残る大会となったダービーを終えて(撮影:島尻譲)

ーー体調不良で4月の平塚記念、川崎記念を欠場。優勝した3月のウィナーズカップ以来の実戦が今年2回目のGIダービーでした。

 決勝に乗れたのは大きかった。ダービーは神経を使う6日間なので。シューズを替えていったりもしたけど、動き自体は(体調不良で休んだ)影響がなかったと思う。少なくとも悪くなっていることはなかった。

ーー1走目が重要だと話していました。

 そうすね、1走目で準決勝が確定したのが大きかった。1着まではいかなかったけど外を踏み切れた。自分の中では1走目で大丈夫だなと感じたし、欠場明けの不安がなくなった。

ーーそして、ゴールデンレーサー賞です! 佐藤慎太郎選手との連係が叶いました。

 はい。メンバーが出そろった時に“もしかしたらあるかもしれないな”とは考えたけど、以前に慎太郎さんが浅井(康太)さんに付いたことがあったので、どうなるんだろうっていう思いだった。

ーー実際に後ろに付くと決まりました。

 記者の方から“慎太郎さんが後ろに付くみたいよ”って聞いて、マジか! ってテンションが上がった。それから慎太郎さんにあいさつに行ったのかな。まさか慎太郎さんの地元のダービー(ゴールデンレーサー賞)で連係することが出来るなんて。

 3番手を大槻(寛徳)さんが固めてくださったのも嬉しかった。大槻さんとは3年前の平塚記念の初日に付いてもらったことがあったし、今年の名古屋記念の最終日に同じレースを走って、レース後に“辛抱どきだな。競輪ファンとして応援してるから”って声をかけていただいた。自分が一番苦しんでいた時だったので嬉しかったですよ。なので、慎太郎さんは勿論だけど、大槻さんと連係出来たことも僕の中では嬉しかった。

佐藤慎太郎-大槻寛徳がついてくれた。他地区であっても二人は清水裕友にとってはかけがえのない選手だ(撮影:島尻譲)

ーーそれにしても数年前の連係の事がスッと出てきてビックリです。

 レースの事はだいたい覚えてますよ!

ーーやっぱりファンが一番気にしているのは、憧れだった佐藤慎太郎選手との初連係です。あらためて、佐藤選手との思い出などを教えてください。

 2006年に防府でふるさとダービーがあったんですよ。小学6年の時かな。そこで慎太郎さんを出待ちして、“GPで慎太郎さんの前を走ります”という内容の手紙を渡したんですね。それでサインをしてもらった。GPではなかったけど、ダービーのゴールデンレーサー賞なので、(GPに)匹敵するくらい価値のあるレースだったと思う。お互いに勝ち上がらないと走れませんから。嬉しかったですね。

“ひろと君江 気合”と書かれた慎太郎さんのサインは今でも宝物(本人提供)

ーー十数年越しの夢が叶ったわけですね。慎太郎選手のファンになったきっかけはあったんですか?

 それがね…。当時の僕の中では気付いたら慎太郎さんのファンになっていた。理由はあまり覚えてない(苦笑)。

ーー中日ドラゴンズのファンになったのと似たような経緯ですね。

 たしかに、そうですね。そんな感じです。

ーー前日からツーショット写真なども撮られたと思います。夜は眠れましたか?

 次の日の新聞が楽しみだった(笑)。とにかく緊張はしたけど、夜はぐっすり眠れた(笑)。

「次の日の新聞が楽しみだった」という憧れの選手とのツーショット (撮影:島尻譲)

ーー当日の話はどんな感じだったんですか?

 特別に変わった感じではなかったけど、僕からは“緊張して鼻息が荒くなってるかもしれません。暴走気味に先行したらすみません”と伝えておきました(笑い)。それを慎太郎さんが“落ち着け!”ってなだめてくださる感じだったかな。

ーーレースでは積極的に風を切りました。

 積極的に行こうとは思っていたけど、レース展開的に腹をくくって先行出来たかな。中団から仕掛けられても嫌だし、出てからはそんなにピッチも緩めていなかったと思う。

ーー結果は関東勢が上位を独占して、慎太郎選手が6着、大槻選手が8着、清水選手は9着でした。

 先行力のなさを痛感した。気持ちだけ前に行って、脚が回っていなかった。やっぱり平常心ではなかったかな。多少は力んだね。

ーーレース後、慎太郎選手とはどんなやり取りがあったんですか?

“僕の力不足ですいません”と伝えました。慎太郎さんからは“ありがとう”と言葉をいただいた。僕がもうちょい、いい先行が出来ていれば違った結果になったかもしれない。

ーー声援も凄かったと聞きました。

“清水ありがとう!”っていう声が多かった。9着であんなに“ありがとう”と言ってもらえたのは初めて。嬉しかった。それだけ慎太郎さんのファンが多いと言う事。あの声援が一番印象に残ってるかな。

慎太郎さんやいわき平のファンからもらった“ありがとう” 深く印象に残ったいわき平のダービーだった

ーーかつて憧れていた佐藤慎太郎。同じ競輪選手として戦っている今、どのように映っていますか?

 今となっては敵として戦う事が多いので、倒さなければいけない相手。勝負の中なので以前とはまた違う心境かな。慎太郎さんはどこからでも突っ込んでくるし、番手の仕事もしっかりとする選手。慎太郎さんのブロックを考えて走らないといけませんからね。敵としてはやりづらい選手ですよ。それにしても凄いですよね。いまだにトップレーサーとして幅を利かせているんで。

ーー話題を提供したゴールデンレーサー賞を経て、準決勝は2着で決勝進出を果たしました。

 スタート争いから駆け引きがあった。選手のいろいろな思惑があって、想定外の前受けになった。正直、いい位置取りにはならなかったけど、山口(拳矢)君が仕掛けてくれて流れができた感じになったかな。

ーーダービーは3大会連続の優出。決勝は7着に敗れてしまいました。

 眞杉(匠)君のカカりが凄かった。準決勝も戦ったけど、決勝はもう一枚も二枚も上がった感じだった。脇本(雄太)さんもそうだけど“相手が強かった”という言葉しか出てこない。平原(康多)さんが番手から出る事が出来るし、後ろには脇本さんがいる。難しかった。展開が向いた時の一発に賭けていたけど、あそこまで一本棒というのは想定してなかったですね。

 もっと脚をつけないといけない。もう一回、同じ展開でやっても自分が勝つ事はなさそう。一か八かの戦法をとるしかなかったのかな。でもそうすると相手を引き出してしまうし…。やっぱり難しかったです。

 一つあるとすれば、最終1コーナーで詰まった時に外へ振ったんですよね。あそこかな。唯一、心残りというか。あそこでそのまま行っていればどうだったかな、という思いはある。タイミング的にそっちだったかな、ちょっと違った展開もあったかな、というのはあるかな。3コーナーで慎太郎さんを越えられていたかもしれない。それでも脇本さんには行かれたでしょうけどね。

ーー決勝は荒井崇博選手との連係でした。レース後に荒井選手とはどんな話を?

 荒井さんからは“お前が行けんのやったら仕方ない。行ける、行けんの勝負だったから”と。レース前も“お前が無理だったら俺も無理だから”って言ってもらって、僕が走りやすいようにしてくれた。だからこそ、その分も応える走りをしたかった。また今度、一緒に連係した際は頑張りたい。

ーーそれでも復帰戦の不安がある中でダービー優出。それなりの手応えもあったのでは。

 ダービーを目指してやってきて、最低限、決勝には乗れたんでね。とにかく楽しかった。有観客だったし。いわき平の内側からの歓声はやっぱり凄い。バンクの外側からとは、また違って直に聞こえてくる感じ。それと、いわき平は施設が綺麗で好き。いい競輪場ですよね。今までのお客さんも大事にしながら、新規のファンが入りやすい競輪場が増えていってくれたら、って思う。

「難しかったけど、楽しかった」と振り返った(撮影:島尻譲)

ーーひとまず目標にしていたダービーが終わりました。ここからはどのようなテーマで戦いますか?

 ここからは一走一走。前半が凄く悪かったので、一走一走しっかり戦いたい。

ーー今思い返してみて、前半の不調の原因はなんだったんでしょう?

 うーん、去年のグランプリに乗れて満足してる部分があったかも。気持ちの切り替えが出来ていなかったかな。今は大丈夫です!

ーーちなみに、替えたシューズの感触はどうでしたか?

 それまでプラスチック製を使っていたけど、主流のカーボン製にしてみた。自転車との組み合わせで、これでいけそうな感じがあった。ダービー後の函館記念も使ってみたけど、課題も見つかった。

ーー函館記念は二次予選、準決勝を1着でクリアして、決勝3着。差し支えがなかったらどんな課題なのか教えてください。

 自力でやる分には問題ないけど、人の後ろをまわっている時に脚がいっぱいになってしまった。あそこまで人の後ろでいっぱいになった事はなかったのに…。追走がヘタクソなんでしょうね。練習します(苦笑)。まぁ(シューズの)時代はカーボンなので、それを使えるにこした事はないですからね。

「課題が見つかった」函館記念の決勝(撮影:島尻譲)

ーーそろそろ最後になります。それにしても、小さい頃の夢が叶うなんてしびれますね。

 まず、自分がここまで来れるとは思ってなかった。それに、15年後もバリバリやっている慎太郎さんが凄いっすね。

ーーファンはやっぱり慎太郎選手との2回目の連係に期待していると思います。

 地区的になかなか難しいと思うけど、連係する可能性はゼロじゃないと思う。2回目は落ち着いて走りたいと思う。

(撮影:島尻譲)

【読者から届いた質問コーナー】

ーー清水選手が今まで同乗した中で1番強いと思った選手と、その理由を教えてください。

 今なら脇本(雄太)さんなんでしょうけどね。僕的に衝撃を受けたのは吉澤純平さん。S級に上がってそれなりに点数も上がっていた時の京王閣記念の準決勝で、カマシを出させまいと全開で踏んでいた上をバコーンと行かれた。化け物かと思ったし、どうにもならないと思った。どっからでも行くし、危ないところも突っ込んで行く。展開とか関係なく強引に攻める感じ。レーススタイルもかっこいいな、って。スマートに勝つんじゃなく、気持ちで走っているような人。そんな風に見えなかったけど対戦したらえげつない感じだった。

ーー自慢のコレクションを教えてください。

 物の収集癖が全くないので…。執着心がないし、趣味で何か集めてるとかはないです。

ーー最近、目からウロコな出来事ってありましたか?

 目からウロコ。ウロコ。うーん、パスでお願いします。

ーーここ最近で一番笑ったのって、どんな事でしょうか。

 難しい質問が多いですね(苦笑)。ゲラゲラ笑う時は人に言えない話になっちゃいますよね。

ーー(先月の)太田竜馬選手の話が面白かったです。最近連係した中で楽しかった中四国の選手はいますか?

 楽しかった…。いろいろな選手にいろいろな特徴があるんでね。最近では町田(太我)君とか、佐々木(豪)君とかの後ろでワクワクはしたかな。付いていて肌で感じる事が多い。それにしても人の後ろが苦手ですね。うまく脚がたまってくれない。まぁ、なんだかんだ(宮本)隼輔との連係が1番楽しいですね。

ーーおこいさん(先月コラム参照)、辛そうですね。辛い料理は得意ですか?

 苦手じゃないです。ただ辛いだけはあれだけど。辛くて美味しいのは好き。おこいさんは、うまみがあるから好き。

ーー欠場が続いて心配しましたが、ダービーで元気に走っている姿を見て安心しました。ダービーの次の目標はなんでしょうか?

 GIタイトルですね。GIIが優勝出来たし、GIが獲れないとは思わない。自転車をためしたりして、いろいろと変化がある。自分のベストを探していく。

ーーダービーお疲れ様でした。決勝で脇本選手と走っている姿を見て、一瞬、松戸のダービーを思い出してしまいました。今の清水選手の目に、脇本選手はどう映ってますか?

 凄い。日本一だと思っている。でも倒さないとどうにもならない。そもそも自分の力を上げない事には。自分が脇本さんについて何かしゃべるなんて、おこがましい。対戦するのは脇本さんだけじゃないし、対脇本さんだけには拘ってはいない。自分はマイペースにやりたい対応なんで、相手の強さにとらわれたくないかな。

(撮影:島尻譲)

ーー自転車競技の全プロが今年も中止になってしまいましたね。清水選手は、自転車競技ってどんなイメージですか?

 僕の中では部活ってイメージ。競輪とは別物。同じケイリンでも全然違う。まぁあの大きいディスクをつけてギアをかけてのスピード感はたまらないものもありますね。競輪の自転車では味わえないような。

ーー今年も函館山に登りましたか?

 登っていない。好きなウニもほとんど食べていない。翌朝の便で帰ってきた。

ーーだんだん暑くなってきましたね。今年の暑さ対策はどんな事を考えていますか?

 水風呂にでも入ろうかなって思ってる。

ーー高松宮記念杯のような東西対抗戦はやりやすいですか? やりにくいですか?

 特に変わらないかな。やる事は一緒なので。普段、味方の人が敵になったりもするけど、レースはレースなので。

ーー今年もルーキーがデビューしました。山口県でも一人デビューしましたね。どんな選手なんですか?

 富(弥昭)さんの息子さんですね。富武大選手。顔がお父さんにそっくり。力はあると思う。まだ一緒に練習した事はないけど楽しみです。

ーー野球はピッチャーの活躍が目立ちますね。年々傾向が変わってきているように思えますが、競輪界も何か傾向が変わってきたみたいな事ってありますか?

 レースがまるっきし違うね。誘導員を切るルール改正は大きかった。踏む距離も長くなった。誘導のスピードも速い。7車のレースも多くて何回か走ったけど、9車の方がいいね。

(取材・構成=netkeirin編集部)

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清水裕友

Hiroto Shimizu

清水裕友(しみずひろと)。山口県防府市出身。105期。日本競輪選手会山口支部所属。師匠は國村洋。ビックレースはGI「読売新聞社杯全日本選抜競輪」(2020年)、GII「サマーナイトフェスティバル」(2020年)、GII「ウィナーズカップ」(2021年)。

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