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前田睦生の感情移入

【ガールズケイリン】奥井迪 40代でガールズグランプリを目指す決意。それも、先行で…

2022/05/24 (火) 12:00 19

奥井迪は北海道が生んだ人生の教師

奥井先生と呼ばれていた奥井迪

 奥井迪(40歳・東京=106期)は東京所属だが、生まれは「果てしない〜、大空と〜」の歌い出しが美しい名曲、「大空と大地の中で」をつくったシンガーソングライター・松山千春で知られる北海道だ。さまざまな出会いを経て、学校の先生からガールズケイリンの選手になった。

 札幌第一高のスキー部の先輩にあたる齋藤明(55歳・北海道=61期)と、先生だった時代に会合で一緒になった。自転車に乗っている話から、ガールズケイリンの話になり、藪下昌也(引退=52期)につながり、そして目指すことになった。

「会合で会ってね。それにスキーの大会を見に行ったら、引率の先生でいたんだよ。どこの大会だったっけ」(斎藤)

 奥井も「どこでしたっけ」と思い出せないくらいだったが、普通の学校の先生だった。おそらく、生徒に優しくて、よく笑う、教室を朗らかな空気にする先生だったのだろう。

「ねえ、奥井センセー! 今度のテスト、何が出るの!? 」。

「ふふっ、そんなこと聞いてくるの松井君だけよ。教えるわけないじゃない! 音楽ばっかり聴いてないで勉強もしなさいよ」。

自分の腕でつかむよう

奥井迪(左)と齋藤明

 奥井は106期、ガールズの3期としてデビューするわけだが、競輪学校(現養成所)時代から先行で頑張ってきた。卒業記念レースは鎖骨骨折後だったのに、誰よりも強い意志で先行していた。

“ラッセル先行”

 ラッセルという雪山での行動の言葉がある。深い雪を踏みしめて、先頭で足場を固め、後ろの仲間が歩けるようにする。雪は積もると、生命を脅かす存在になる。得体の知れない怖さと頑強さを持つ。そこに立ち向かう“ラッセル”のたくましさがある。

 味方がいないガールズケイリンの先行は雪山登攀(とうはん)のように過酷で、それに挑む姿は、まさにラッセル。

 バートランド・ラッセル(1872-1970)という数学者の名前も思い浮かぶわけだが、その著書「幸福論」は机の上で裏返したままだ。

生きる事がつらいとか苦しいだとか言う前に…

頑張れ! 頑張り抜け!

 奥井は今年の12月には41歳になる。7月で10周年となるガールズケイリンだが、40代でのガールズケイリングランプリ出場を目指している。もちろん、まだそんなガールズ選手はいない。

「前と違ってみんなのレベルが上がっているし、どうなのかな。厳しいな〜。でも男子選手ですごい人、たくさんいるじゃないですか」と奥井は言う。

 男子の競輪が崇高な世界にたどり着いているように、奥井がグランプリの出場権をつかみ取れば、それはまたガールズケイリンの価値につながる。挑む山が目の前にある。北海道の銘菓「白い恋人」は万人に愛される味だ。郷土のお菓子を意識し、奥井が生産するのは「もがく恋人」。流行る可能性は感じないネーミングだが、車券という恋愛行為の中に生まれる愛がある。

「松井君、何変なこと言ってんの! 勉強しなさい! 」

 奥井が道を切り開くことの意味を応援する人は多い。平塚競輪場のガールズケイリングランプリ2022への道は、後約半年。教室を抜け出して屋上で煙草を吸うような松井君みたいな架空の生徒は物語の話だが、今や奥井先生の生徒は日本中にいる。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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